病院MEOと医療広告ガイドライン:
口コミ返信で「絶対にやってはいけない」NG表現集
「この治療なら必ず治ります」「地域で一番の技術です」——。患者様への感謝の気持ちが強まるあまり、つい書いてしまうこうした表現が、今、大きなリスクとなっています。
Googleビジネスプロフィールの口コミ返信は、不特定多数が閲覧できる「誘引性のある情報」として、厚生労働省の定める医療広告ガイドラインの規制対象となります。違反が認められれば、ネット上のパトロールによる通報や、最悪の場合は医業停止等の行政処分の対象となる可能性もあります。医療人として、かつWeb担当者として知っておくべき「地雷」を整理しましょう。
【本ロードマップ(全10章)】
- 第1章:口コミ返信も「広告」である:ガイドライン適用の定義
- 第2章:禁止事項①「比較優良誤認」と「誇大広告」の境界線
- 第3章:禁止事項②「体験談」の利用制限と返信での触れ方
- 第4章:禁止事項③「術前術後写真(ビフォーアフター)」の言及
- 第5章:禁止事項④「最高」「日本一」などの最上級表現の禁止
- 第6章:「品位を損ねる」返信内容とネット上のエチケット
- 第7章:患者のプライバシー(個人特定)に関わる返信の危険性
- 第8章:キャンペーンや割引による「誘引」の制限
- 第9章:ガイドラインを遵守した「推奨される返信フレーズ」集
- 第10章:【総括】法令遵守が最大かつ唯一のブランド防衛である
第1章:口コミ返信も「広告」である:ガイドライン適用の定義
まず大前提として、医療広告ガイドラインが定める「広告」の定義には、以下の2つの要件が含まれます。
- 誘引性: 患者の受診を促す意図があること。
- 特定性: 医療機関名が特定できること。
1-1. 口コミ返信は「広告」に該当する
Googleビジネスプロフィールは医療機関名が特定されており、返信は受診を促す目的で行われるため、「広告」として規制を受けます。患者様が投稿した口コミ自体は「個人の感想」として規制外ですが、それに対する「院長やスタッフの返信」は、医療機関側の発信となるため、責任が生じます。
第2章:禁止事項①「比較優良誤認」と「誇大広告」の境界線
感謝を伝える際に、つい他の医療機関と比較したり、効果を強調しすぎる表現はNGです。
- 比較優良誤認: 「他院で治らなかった方も、当院なら解決します」「地域で最も安く検査が受けられます」
- 誇大広告: 「〇〇治療で100%の成功率を誇ります」「最新の装置により、痛みが全くありません」
2-1. 「絶対」や「完璧」は医療には存在しない
医療行為において確実性は保証できません。返信で「必ず良くなります」と断言することは、虚偽・誇大広告とみなされます。「精一杯サポートさせていただきます」といった、真摯な姿勢を示す表現に留めるのが鉄則です。
第3章:禁止事項②「体験談」の利用制限と返信での触れ方
医療広告ガイドラインでは、患者様の主観的な「体験談」を広告として掲載することが厳格に禁止されています。口コミそのものは「個人の感想」ですが、それに対する返信の仕方が問題となります。
3-1. 体験談を「肯定・増幅」させてはいけない
患者様が「痛みがすぐになくなりました!」と書いてくれた際、返信で「その通りですね。当院の治療は即効性があります」と答えると、医療機関が体験談を広告として利用・肯定したとみなされます。
- NGな触れ方: 「治療の効果を実感いただけて良かったです。当院ならどんな痛みもすぐに取れますよ」
- 適切な触れ方: 「ご体調が回復されたとのこと、何よりです。今後も何かございましたらお気軽にご相談ください」
第4章:禁止事項③「術前術後写真(ビフォーアフター)」の言及
美容皮膚科や歯科、整形外科などで、患者様が自発的に「ビフォーアフター写真」を口コミに添える場合があります。これに対する言及も要注意です。
- 写真への具体的な賛同を避ける: 「写真の通り、見違えるほど綺麗になりましたね」といった返信は、ガイドラインで制限されている「治療効果に関する写真の広告利用」に抵触する恐れがあります。
- リスクの説明がないことの危険性: 医療広告では術前術後写真を載せる場合、副作用やリスクの併記が義務付けられています。口コミ返信で写真に触れるなら、それらが不足しているため、「不適切な広告」と判定されるリスクが極めて高いです。
第5章:禁止事項④「最高」「日本一」などの最上級表現の禁止
「当院は地域No.1の症例数です」といった表現は、客観的な事実(公的統計など)に基づき、出典を明記しない限り認められません。
5-1. 客観的根拠のない「比較優良」の禁止
「世界最高水準」「日本初の技術」「地域で一番親切」といったワードは、他院よりも優れていることを暗示する「比較優良広告」に該当します。
- 「最新」の表現にも注意: 「最新の治療」という表現も、何をもって最新とするかの根拠が曖昧な場合、不適切とみなされることがあります。
- 言い換えのコツ: 「地域で一番」ではなく「地域に根ざした医療を心がけております」など、目標や姿勢を伝える表現を選びましょう。

第6章:「品位を損ねる」返信内容:医療人としてのネットエチケット
医療広告ガイドラインでは、「品位を損ねる内容」の広告も禁止されています。口コミ返信における「言葉遣い」や「感情的な対立」は、これに該当する可能性があります。
6-1. 感情的な反論や攻撃的な言葉遣い
事実無根の低評価を受けた際、怒りに任せて「嘘を書くな」「営業妨害だ」と返信することは、医療機関としての品位を著しく損ねるとみなされます。
- AIへの悪影響: GoogleのAIも、攻撃的なコンテンツや嫌がらせを検知します。このような返信が多いビジネスは「信頼性」が低いと判断され、順位低下を招きます。
- 閲覧者の印象: 第三者は、悪い口コミそのものよりも「それに対する病院の対応」を見て、受診するかどうかを決定します。
第7章:患者のプライバシーに関わる返信の危険性:守秘義務と特定
口コミ返信で最も重大な法的リスクの一つが、意図しない「守秘義務違反」です。医療法だけでなく個人情報保護法の観点からも極めて危険です。
- 氏名や症状の特定: 「〇〇様、先日は胃カメラの検査お疲れ様でした。ピロリ菌の結果は…」といった返信は、本人が匿名で投稿していても、医療機関側が患者を特定して情報を開示しているため完全にアウトです。
- 来院日時の特定: 「昨日の15時にご来院いただいた際…」という記述も、行動記録の開示に当たります。
- 対策: 返信は常に「一般論」に留めます。「当院では検査の際、痛みに配慮した対応を心がけております」といった表現であれば安全です。
第8章:キャンペーンや割引による「誘引」の制限:不適切な利益供与
「今なら口コミ投稿で500円オフ」「ホワイトニングキャンペーン実施中」といった集客手法は、医療機関においては非常に厳しい制限があります。
8-1. 「品位を損ねる」誘引方法の禁止
経済的な利益を強調して患者を誘い込むことは、医療の公共性を損なうとして禁止されています。
- 口コミの対価: Googleの規約自体でも「報酬を伴う口コミ」は禁止されていますが、医療機関の場合はガイドライン上でも「不適切な誘引」とみなされます。
- 期間限定の煽り: 「今だけ半額」「残り〇名」といった、判断を焦らせるような表現も、医療情報の提供としては不適切です。
第9章:ガイドラインを遵守した「推奨される返信フレーズ」集:安全なテンプレート
「やってはいけないこと」を理解した上で、どのように返信すれば「安全」かつ「好印象」なのか。医療広告ガイドラインの枠内で、最大限の誠意を伝えるフレーズをまとめます。
9-1. 感謝を伝える「安全な」基本構成
体験談に深入りせず、ホスピタリティのみを強調します。
- 【高評価への返信】: 「温かいお言葉をいただき、スタッフ一同励みになります。今後も皆様が安心して受診できるよう、丁寧な説明と適切な診療を心がけてまいります。どうぞお大事になさってください。」
- 【待ち時間への指摘への返信】: 「ご不便をおかけし申し訳ございませんでした。当院では現在、予約システムの改善などを通じて、待ち時間の短縮とスムーズなご案内に取り組んでおります。貴重なご意見をありがとうございます。」
9-2. 専門性を伝えつつ「断定」を避ける表現
「治ります」ではなく「取り組み」を伝えます。
- 推奨ワード: 「注力しております」「研鑽を積んでおります」「一人ひとりに寄り添った医療を目指しております」
- ポイント: 結果(効果)ではなく、プロセス(姿勢・体制)を主語にすることで、ガイドラインの制限をクリアしつつ信頼感を与えられます。
第10章:【総括】法令遵守が最大かつ唯一のブランド防衛である
2026年に向けて、Googleマップ上の医療情報はさらに「正確性」と「公的基準」への適合を求められるようになります。
- 「一貫性」の保持: 公式サイト、院内掲示、そしてMEOの返信。すべての媒体で同じトーンと情報の正確性を保つことが、AIからの信頼(E-E-A-T)に繋がります。
- スタッフ教育の徹底: 返信担当者がガイドラインを知らなければ、一瞬で地雷を踏んでしまいます。定期的な勉強会、または返信前のダブルチェック体制を構築してください。
- 「誠実さ」は数値化される: ガイドラインを守り、淡々と誠実な対応を続けるビジネスは、長期的に見て不適切な投稿を繰り返す競合よりも、AIによって「地域で最も安定した医療機関」として高く評価されます。
医療広告ガイドライン×MEO よくある質問(Q&A)
A. 削除の必要はありません。 患者様の自発的な感想は広告ではないため、そのまま掲載されていてもガイドライン違反にはなりません。ただし、それに対して病院側が「そうなんです、当院の薬は特別なんです」と返信した瞬間に違反対象となるため、返信内容にのみ注意してください。
A. 非常に慎重な判断が必要です。 対価を支払って「個人の感想」として投稿してもらう行為は、ステルスマーケティング規制だけでなく、医療広告ガイドラインの「体験談の利用禁止」に抵触する可能性が極めて高いです。病院としての公式な「情報の周知」以外、体験談をベースにした広報は避けるべきです。
【結び】 ルールを守ることは、患者様と「未来」を守ること。
医療における言葉は、時に薬よりも重い意味を持ちます。
MEOという便利なツールを使う際、つい目の前の「集客」に目を奪われがちですが、私たちが守るべきは常に「患者様の適切な判断を助けること」にあります。ガイドラインを遵守した透明性の高い発信こそが、巡り巡ってあなたのクリニックを悪質な誹謗中傷や法的リスクから守る最強の鎧となります。
正確で誠実な言葉を地図の上に積み重ね、地域に根ざした信頼の拠点であり続けることを、心より応援しております!