多店舗展開時のNAP管理表の作り方:
表記揺れを根絶するスプレッドシート運用術
「ホットペッパーには『新宿店』、Googleマップには『新宿支店』、公式サイトには『新宿 居酒屋 〇〇』と書いてある…」
店舗数が増えるほど、情報の不一致は深刻な問題になります。GoogleはWeb上の情報を収集し、それらが「同一店舗」であると確信したときに評価を合算します。しかし、NAP(Name/Address/Phone)に表記揺れがあると、Googleのアルゴリズムは混乱し、順位が上がりにくくなるのです。
本記事では、多店舗展開を行う企業が「情報の正解」を一元管理するためのスプレッドシート作成術を解説します。ただの表ではありません。「表記揺れが物理的に発生しない仕組み」を実装した、最強の管理ツールを構築しましょう。
【本記事の構成(Part 1)】
- 第1章:なぜ「自由入力」のスプレッドシートは失敗するのか?
- 「全角・半角」「スペースの有無」がMEOの足を引っ張る
- マスターデータ(真実のソース)を定義する重要性
- 第2章:NAP管理表の必須項目と「正規化」のルール
- 【Name】屋号+店舗名のルールを全店共通にする
- 【Address】「丁目・番地」をハイフンに統一するか漢字にするか
- 【Phone】ハイフンあり・なし、市外局番の扱い
- 第3章:表記揺れを許さない!スプレッドシートの「入力規制」テクニック
- 都道府県、店舗種別をプルダウン化する
- 全角英数字を自動で半角に変換する関数の仕込み方
第1章:なぜ「自由入力」のスプレッドシートは失敗するのか?
多店舗管理の現場でよくある失敗は、単に「店舗名」「住所」「電話番号」という列を作って、各店舗の担当者に自由に打ち込ませることです。
1-1. アルゴリズムにとって「1文字の違い」は別物
人間の目には同じに見えても、Googleのクローラーには以下はすべて「別の情報」として処理されるリスクがあります。
- 居酒屋まるまる 新宿店
- 居酒屋まるまる 新宿店(全角スペース)
- 居酒屋まるまる新宿店(スペースなし)
- 居酒屋まるまる 新宿支店
これらがネット上に散らばると、Googleは「どれが本当の情報か」が分からず、サイテーションとしての加点を行わなくなります。
1-2. マスターデータこそが「唯一の真実」
管理表を作る目的は、単なる記録ではありません。このシートに記載された情報が、公式サイト、SNS、ポータルサイト、そしてGoogleマップに記載する際の「唯一無二の正解(マスターデータ)」であると定義することにあります。
第2章:NAP管理表の必須項目と「正規化」のルール
管理表を作る前に、まずはブランドとしての「正規表現(共通ルール)」を決定します。
2-1. 【Name】店舗名の命名規則
Googleビジネスプロフィールのガイドラインでは「実際の店舗名」以外を含めることを禁止していますが、多店舗展開では「ブランド名 + 店舗名」の形が一般的です。 「株式会社〇〇」などの法人格や、不要なキャッチコピーを排除し、全店で「(スペース)の有無」まで統一します。
2-2. 【Address】住所の統一基準
最も表記揺れが起きやすいのが住所です。以下のどちらかに統一することを推奨します。
- パターンA:東京都新宿区西新宿1-2-3 〇〇ビル 4F
- パターンB:東京都新宿区西新宿一丁目2番3号 〇〇ビル4階
最近のGoogleは賢くなっていますが、ポータルサイト側での名寄せ精度を高めるため、「丁目番地はハイフン、数字は半角、建物名との間にスペース」といった詳細なルールをマスターとして固定します。
2-3. 【Phone】電話番号の形式
電話番号は「03-xxxx-xxxx」のように、ハイフンありの半角に統一するのが一般的です。管理表では、数値を打ち込んだだけで自動的にハイフンが補完される書式設定を推奨します。
第3章:表記揺れを許さない!スプレッドシートの「入力規制」テクニック
ルールの周知だけでは、必ず「打ち間違い」が発生します。スプレッドシートの機能を使って、**「間違った入力ができない状態」**を作ります。
3-1. 都道府県や店舗種別を「プルダウン(データの入力規則)」にする
「東京都」を「東京」と書かれないよう、都道府県は必ず選択式にします。また、「店」「支店」「センター」などの接尾語も選択式にすることで、名称の後半がバラつくのを防ぎます。
3-2. 全角・半角を自動調整する関数を仕込む
住所の数字や電話番号を全角で入力してしまっても、隣の列で自動的に半角に変換されるようにしておくと安全です。
=ASC(B2) ※B2セルに入力された全角文字を、すべて半角に変換する関数
3-3. データの重複チェック
「条件付き書式」を使い、電話番号が重複して入力された場合にセルが赤くなるように設定します。これにより、間違えて他店の情報をコピーしてしまった際も、即座にミスに気づくことができます。

【本記事の構成(Part 2)】
- 第4章:「住所のズレ」を可視化する緯度経度管理と地図リンク
- Googleマップのピン位置(座標)を数値で管理する理由
- 住所からGoogleマップのURLを自動生成する数式
- 第5章:サイテーション管理:各メディアの掲載状況を一括把握
- 食べログ、ぐるなび、SNSの「NAP一致」をチェックする列を作る
- 最終更新日と担当者を記録し「情報の腐敗」を防ぐ
- 第6章:運用を爆速にする「コピペ専用」生成エンジンの実装
- SNS投稿や業者への指示出しに使える「結合セル」の作り方
- 改行を含めた「店舗紹介文」のテンプレート管理
- 第7章:複数人管理での「データ破壊」を防ぐ保護設定
- 「範囲の保護」で数式とマスターデータを守る
- 変更履歴(編集履歴)の追跡と復元方法
第4章:「住所のズレ」を可視化する緯度経度管理と地図リンク
多店舗展開において、意外な落とし穴になるのが「住所は合っているのに、マップのピンの位置がズレている」という現象です。これを防ぐために、管理表にはテキストとしての住所だけでなく、「緯度・経度(座標)」の列を持たせるべきです。
4-1. 座標を管理するメリット
新店舗の登録時や情報の修正時、Googleに「正確な地点」を伝えるためには、緯度経度の数値が最も確実です。特に大型商業施設内の店舗や、入り口が分かりにくい路地裏の店舗では、住所だけではピンが正しく刺さらないことが多いため、マスターデータとして数値を保管しておきます。
4-2. 地図URLの自動生成数式
管理表にある住所から、ワンクリックでGoogleマップを開けるリンクを自動生成しておくと、チェック作業が劇的に楽になります。
=HYPERLINK("https://www.google.com/maps/search/" & ENCODEURL(C2), "マップ確認")※C2セルに住所が入っている場合、その場所をGoogleマップで検索するリンクを作成します。
第5章:サイテーション管理:各メディアの掲載状況を一括把握
NAP管理表の真骨頂は、Googleビジネスプロフィールの管理だけではありません。Web上のあらゆる媒体(サイテーション元)の情報を一致させることにあります。
5-1. 媒体別チェックリストの作成
管理表の右側に、主要なポータルサイトやSNSの列を作ります。
- 公式サイト: リンク先URL、NAP一致確認日
- 食べログ / ホットペッパー: 掲載有無、NAP一致確認日
- Instagram / Facebook: アカウントURL、プロフィール欄のNAP一致
これにより、「Googleマップは直したが、Instagramの住所が古いままだった」といった、チェーン店によくあるミスを視覚的にゼロにできます。
第6章:運用を爆速にする「コピペ専用」生成エンジンの実装
各媒体への入力作業をするとき、管理表の各セルを一つずつコピーするのは非効率です。あらかじめ「コピペ用の結合テキスト」を用意しておく列を作ります。
6-1. 結合関数の活用
例えば、以下の数式を使って「店名 + 住所 + 電話番号」を一行にまとめたセルを作ります。
=B2 & " " & C2 & " " & D2※店舗名、住所、電話番号をスペース区切りで結合します。
SNSのプロフィール更新や、外部のWEB制作会社への指示出しの際、このセルを一つコピーして送るだけで「100%正確な情報」を共有できます。
第7章:複数人管理での「データ破壊」を防ぐ保護設定
スプレッドシートを複数人で共有する場合、誰かが誤って関数を消したり、住所を書き換えてしまったりするリスクがあります。
7-1. 範囲の保護機能
「マスターデータ」となるNAP列や、自動計算を仕込んだ列には、**「範囲の保護」**をかけます。編集権限を管理者のみに絞ることで、現場担当者が誤ってデータを改ざんすることを防ぎ、情報の整合性を死守します。
7-2. 変更履歴の定期チェック
スプレッドシートの「変更履歴(ファイルメニュー > 変更履歴)」を使えば、「いつ、誰が、どの店舗の情報を書き換えたか」がすべて記録されます。万が一、間違った情報に書き換えられても、1クリックで元の「正しいNAP」に復元することが可能です。

【本記事の構成(Part 3・完結)】
- 第8章:情報の腐敗を防ぐ「メンテナンス・ルーティン」の確立
- 四半期に一度の「NAP一斉検診」のやり方
- 新店オープン・退店時のワークフローへの組み込み
- 第9章:隠れた表記揺れを発見する「逆引き」検索テクニック
- 電話番号の「ハイフンなし」でWebを検索してみる
- 旧店名や旧住所が残っているサイトの特定方法
- 第10章:NAP管理はMEOの「土台」であり「資産」である
- 管理表がある企業とない企業の5年後の差
- よくある質問(Q&A)と総括
第8章:情報の腐敗を防ぐ「メンテナンス・ルーティン」の確立
最強の管理表を作っても、放置すれば情報は古くなり、価値を失います。これを「情報の腐敗」と呼びます。遠隔地の店舗やFC店が多いほど、本部の知らないところで電話番号が変わっていたり、ビル名が変更されていたりするものです。
8-1. 四半期に一度の「NAP一斉検診」
3ヶ月に一度、各店舗の店長やエリアマネージャーに管理表のリンクを送り、「現在の実態と1文字の狂いもないか」を確認させるルーティンを構築してください。 「変更なし」という報告であっても、必ず確認した日付を管理表の「最終確認日」列に記録させることで、情報の鮮度を担保します。
8-2. 開店・閉店・改装フローへの完全同期
店舗開発部門や内装部門と連携し、店舗情報に変化が生じるタイミング(契約締結時など)で、自動的にMEO担当者に情報が飛ぶような社内フローを作成します。管理表が常に最新であれば、Googleへの修正申請もスムーズに行え、集客のダウンタイムを最小限に抑えられます。
第9章:隠れた表記揺れを発見する「逆引き」検索テクニック
管理表が完成したら、次はその「正解」を使って、ネット上に散らばっている「間違い」を大掃除します。
9-1. 電話番号による逆引き検索
Google検索窓に、店舗の電話番号を「ハイフンなし」「ハイフンあり」の両方のパターンで打ち込んでみてください。 思わぬ地方のポータルサイトや、過去の求人サイトに古いNAP(旧店名や旧住所)が残っているのを発見できるはずです。これらを一つずつ修正依頼していく地道な作業こそが、MEOの評価を盤石なものにします。
9-2. 建物名の中抜きチェック
「〇〇ビル」という名称が、あるサイトでは「〇〇ビルディング」となっていたり、あるいは省略されていたりします。管理表のマスターデータに基づき、主要な媒体から順次「正しい表記」へ統一していきましょう。Googleは情報の**「一致率」**を常に監視しています。
第10章:NAP管理はMEOの「土台」であり「資産」である
NAP管理表を作る作業は、正直に言って地味で退屈なものです。しかし、この「土台」がしっかりしていない状態で、いくら高額なMEOコンサルティングを受けたり、ツールを導入したりしても、砂上の楼閣に過ぎません。
100店舗あれば、100通りの正しい情報があります。それを一元管理できている企業は、Googleからの信頼(Trust)を獲得し、検索結果の変動にも強い、真に強固なデジタル資産を持つことになります。
多店舗NAP管理 よくある質問(Q&A)
A. 結論から言えば、「どちらでも良いが、全媒体で統一されていること」が最重要です。 ただし、現在のGoogleのトレンドや、スマートフォンのマップアプリでの認識率を考えると、入力ミスが起きにくい「ハイフン形式(3-2-1)」に統一する企業が増えています。
A. Googleビジネスプロフィールの登録内容に合わせるのが基本です。 Googleビジネスプロフィールにビル名をフルネームで入れているなら、管理表もそれに合わせます。ただし、あまりに長すぎてポータルサイトの文字数制限に引っかかる場合は、共通の「略称ルール」を管理表に備考として記しておきましょう。
A. クラウドでリアルタイム共有できるスプレッドシートを強く推奨します。 多店舗管理では、情報の更新頻度が高いため、ローカル保存のExcelファイルだと「どれが最新版か分からない」という事態を招きます。常に1つのURLに最新情報が集約されている状態を作ることが管理の肝です。
【総括】 1文字の正確さが、100店舗の集客を変える。
多店舗展開におけるMEO成功の鍵は、派手なテクニックではなく、こうした「情報の整理整頓」という地道な作業にあります。
今回作成したNAP管理表は、単なるデータのリストではありません。
それは、あなたのブランドがインターネットという巨大な地図の上で、どこに、どのような名前で存在しているかを証明する「公式な身分証」です。
今日から1店舗ずつ、丁寧に「正解」を書き込んでみてください。
その正確なデータの積み重ねが、半年後、1年後の検索順位と来店数として、必ず大きな果実をもたらすはずです。