序章:なぜ、店長に「口コミ集めて」と言っても集まらないのか
「今月からMEOに力を入れるから、お客様に口コミをお願いしてくれ」
オーナーがそう号令をかけても、現場からは一向に口コミが上がってこない。
写真も送られてこない。
「うちのスタッフはやる気がないのか?」
いいえ、違います。彼らは単に「忙しい」のです。
日々のオーダー、調理、清掃、クレーム対応…。目の前の業務で手一杯な彼らにとって、「Googleマップの対策」などという実体のない業務は、「本社が勝手に決めた、面倒な余計な仕事」としか映りません。
この「温度差」を埋めない限り、どんなに高額なツールを入れてもMEOは失敗します。
必要なのは、現場に負荷をかけない「仕組み」と、やりたくなる「理由」です。
本記事では、スマホ一台で完結する、現場主導型の最強MEOチームの作り方を解説します。
第1章:マインドセット:MEOは「Web業務」ではなく「接客」である
まず、言葉の定義を変えましょう。
スタッフに対して「Webマーケティングを手伝って」と言ってはいけません。
ITが苦手なスタッフは、その瞬間に心を閉ざします。
MEO対策は、パソコン作業ではありません。
「デジタル空間での接客(おもてなし)」だと教えてください。
「スマホの向こう側」へのアプローチ
「お店の前を通る人には『いらっしゃいませ』と声をかけるよね?
Googleマップで検索している人も同じ。今まさに、お店に入ろうか迷ってスマホを見ているんだ。
その人たちに向けて、美味しそうな写真を見せたり、安心できる口コミを見せたりするのは、ドアを開けてあげるのと同じ『接客』なんだよ」
このように伝えることで、サービス精神旺盛なスタッフほど、MEOの重要性を肌感覚で理解してくれます。
MEOを「数字のため」ではなく「まだ見ぬお客様のため」の活動だと定義し直すことが、巻き込みの第一歩です。
第2章:誰でも撮れる!「1日1枚」の写真収集ルーティン
Googleマップにおいて「写真の鮮度(最新かどうか)」は極めて重要です。
プロカメラマンを毎月呼ぶ予算がないなら、スタッフのスマホを活用するしかありません。
一眼レフ禁止令。スマホ写真が最強な理由
「綺麗に撮らなきゃ」と気負わせる必要はありません。
むしろ、Googleマップでは「プロっぽくない、リアルな写真」の方がクリック率が高い傾向にあります。
加工された広告写真ではなく、「今の店内の雰囲気」や「今日の日替わりランチの実物」が見たいのです。
高性能なスマホカメラがあれば十分。加工アプリも不要。
「無加工のリアル」こそが、信頼を生みます。
「アイドルタイム」を活用し、LINEで送るだけ
業務時間外にやらせてはいけません。
ランチのピークが過ぎた14時頃や、オープン前の準備時間などの「アイドルタイム(隙間時間)」を使います。
【運用ルール例:1日1枚フォトチャレンジ】
- 担当スタッフが、その日一番美味しそうにできた料理や、元気に働いている仲間をスマホでパシャリと撮る。(所要時間:10秒)
- 店舗のLINEグループに、写真だけをポンと送る。(コメント不要)
- 本部の担当者(または店長)が、それを拾ってGoogleビジネスプロフィールに投稿する。
現場の負担は「撮ってLINEに送る」だけ。
これなら誰でも続けられます。
「今日は〇〇ちゃんが撮ってね」と当番制にするのも有効です。
撮るべき被写体リスト(カンニングペーパー)
「何を撮ればいいか分からない」というスタッフのために、リストを渡しておきましょう。
- シズル感: 湯気が立っているラーメン、肉汁が出ているハンバーグ。
- 季節感: 「冷やし中華始めました」のPOP、クリスマスの飾り付け。
- 人(スタッフ): 真剣に調理している横顔、笑顔で配膳している姿。
- 賑わい: 満席の店内(※お客様の顔はボカすか、背中越しに撮る)。

第3章:「QRコードを置くだけ」からの卒業:口コミ獲得トーク
多くの店が、レジ横やテーブルに「Googleで口コミを書いてください!」というQRコード付きのPOPを置いています。
しかし、それだけで書いてくれるお客様は100人に1人もいません。
なぜなら、お客様は「面倒くさい」からです。
そのハードルを超えるのは、POP(モノ)ではなく、スタッフの「一言(ヒト)」しかありません。
最高のタイミングは「お会計」ではない
よくある間違いが、忙しいレジの会計時に「口コミお願いします」と早口で言うパターン。
これは逆効果です。お客様は財布をしまったり、次の予定を考えたりしていて聞いていません。
最高のお声がけタイミングは、「感情が動いた瞬間」です。
- 料理を提供して「わぁ、美味しそう!」と歓声が上がった時。
- 誕生日プレートを出して、写真撮影を手伝った直後。
- お見送りの際、「すごく美味しかったです」と感謝の言葉を頂いた時。
この瞬間に、「ありがとうございます!そう言っていただけると本当に嬉しいです!」と笑顔で返し、すかさず次のアクション(カード渡し)に繋げます。
「名刺サイズカード」をスタッフ個人に持たせる
テーブルのPOPを指差すのではなく、スタッフがポケットからサッと出せる「名刺サイズのQRカード」を用意してください。
ここでのポイントは、カードの裏面に「スタッフの名前を書く欄」を作っておくことです。
【トークスクリプト例:お見送り時】
お客様:「ごちそうさま、美味しかったよ」
スタッフ:「ありがとうございます!もしよろしければ、このカードからGoogleマップに感想を書いていただけないでしょうか?
私の名前(〇〇)も書いていただけると、店長に褒めてもらえるので(笑)、ぜひ応援お願いします!」
こう言われて嫌な顔をするお客様はいません。
「店への評価」ではなく「目の前の頑張ってくれたスタッフへの応援」に変換することで、心理的なハードルが一気に下がります。
第4章:やらされ仕事を「ゲーム」に変えるインセンティブ設計
スタッフに動いてもらうためには、何かしらの報酬(インセンティブ)が必要です。
ただし、安易に「1件獲得したら500円」といった金銭報酬にするのは危険です。
不正(自作自演や友人への強要)の温床になりやすく、チームの空気がギスギスするからです。
金銭よりも「承認欲求」を満たす
おすすめなのは、ゲーム感覚を取り入れた「称賛の仕組み」です。
- ベストフォト賞:
月に一度、スタッフが撮ってくれた写真の中で、最もGoogleマップでの閲覧数(インプレッション)が高かった写真を発表。「今月のMVPフォトは、バイトのAちゃんが撮ったパンケーキの写真で、閲覧数5,000回でした!」と表彰し、少額のAmazonギフト券などを渡す。 - お名前入り口コミ賞:
お客様の口コミの中に、スタッフの名前(「Aさんの接客が良かった」など)が入っていたら、朝礼やグループLINEで全員の前で読み上げて称える。
「自分の仕事が認められた」「店に貢献できた」という実感こそが、時給以上のモチベーションになります。
ネガティブな口コミが来た時の「守り方」
スタッフが口コミ集めに消極的になる理由の一つに、「悪口を書かれたらどうしよう」という恐怖があります。
オーナーや店長は、事前にこう宣言して安心させてください。
「もし理不尽なクレームや悪口を書かれたら、私が責任を持って返信するし、Googleに削除申請もする。だから気にせず、恐れずにやってほしい」
実際にネガティブな口コミが入った時こそ、スタッフを守る姿勢を見せるチャンスです。
「これは君のせいじゃない、店の仕組みの問題だ」とかばうことで、信頼関係はより強固になります。
第5章:成果のフィードバック:数字ではなく「物語」を共有する
毎月のMEOレポートを、そのままスタッフに見せてはいけません。
「表示回数が120%アップしました」と言われても、アルバイトスタッフには「ふーん、で?」です。
数字を、現場の手触り感のある「物語(エピソード)」に翻訳して伝えてください。
「君の撮った写真でお客さんが来たよ」
例えば、予約の電話を受けた際に「何を見てお電話くれましたか?」と聞き、「Googleマップの写真が美味しそうだったから」と言われたとします。
これをそのまま朝礼で伝えます。
「昨日、3名様の予約が入ったんだけど、きっかけはB君が先週アップしてくれた『新作パスタの写真』だったよ。B君のおかげで売上が上がったよ、ありがとう!」
自分のスマホで撮った何気ない一枚が、実際のお客様を連れてきた。
この成功体験があれば、指示されなくても「次は何を撮ろうかな?」と自発的に考えるようになります。
スタッフ全員を「マーケティングチーム」にする
MEOの成果を共有することは、スタッフに「経営参加意識」を持たせることでもあります。
「僕たちが頑張れば、お客さんが増えるんだ」
そう思える店舗は強いです。
月に一度でいいので、バックヤードに「今月のGoogleマップ成果」として、
・一番見られた写真
・一番嬉しかった口コミ
を貼り出してみてください。
それだけで、店の空気は確実に変わります。

終章:現場が主役、本部は黒子
ここまで、現場スタッフを巻き込んだMEO運用について解説してきました。
最後に、オーナー様や本部担当者様に伝えたいことがあります。
Googleマップに掲載される写真が「プロのカメラマンが撮った完璧な写真」ばかりの店よりも、「スタッフがスマホで撮った、ちょっと手ブレしているけど楽しそうな写真」で溢れている店の方が、今のユーザーには響くということです。
それは、そこに「人の体温」があるからです。
MEO対策において、本部の役割は「指示出し」ではありません。
現場のスタッフが動きやすいように環境を整え、守り、そして彼らの小さな成果を全力で称賛する「黒子(サポーター)」に徹することです。
【本記事の結論】
- ハードルを下げる:
「映える写真」も「気の利いた文章」も要りません。「撮ってLINEするだけ」まで業務を簡略化しましょう。 - スタッフを主語にする:
口コミ獲得を「店の評価」ではなく「スタッフへの応援」に変えることで、お客様もスタッフも動きやすくなります。 - フィードバックを欠かさない:
「君のおかげでお客様が来たよ」という言葉が、時給以上の報酬となり、次のアクションを生みます。
「最高のMEO対策」とは、小手先のテクニックではありません。
「スタッフが楽しそうに働き、その熱気がWebを通じて画面の向こう側にまで伝染すること」です。
今日からパソコンを閉じ、現場に降りて、スタッフに声をかけてみてください。
「ねえ、今のその料理、すごく美味しそうだからスマホで撮ってくれない?」
その一枚の写真から、あなたの店の大躍進が始まります。