序章:「幻の電話」の正体
Googleビジネスプロフィールのレポートを見て、オーナー様が首をかしげる瞬間があります。
「今月の通話数、50件になってるけど…そんなに電話鳴ったかなあ?」
感覚的には、予約の電話は1日1本あるかないか。
月にせいぜい20本程度のはずなのに、Googleのデータは倍以上の「50」を示している。
この差分、つまり約30件の電話はどこへ消えたのでしょうか?
これを「Googleのデータがおかしい」で片付けてはいけません。
この「消えた電話」の中にこそ、MEO対策の真の実力と、店舗運営の改善のヒント(機会損失)が隠されているからです。
本記事では、この「幻の電話」の正体を暴き、MEO対策にかかった費用に対して、実際にいくらの利益が出ているのか(ROI)を厳密に計算するためのロジックを解説します。
第1章:なぜタップされたのに電話が鳴らないのか?
まず、大前提となるGoogleの仕様を理解しましょう。
管理画面に表示される「通話数(Calls)」は、「通話が成立した数」ではありません。
正確には、「スマホ上の『電話する』ボタンがタップされた回数」です。
スマートフォンの仕様:「ダイアログ表示」でカウント
ユーザーがGoogleマップで「電話」ボタンを押すと、どうなるでしょうか?
いきなり発信するのではなく、画面下部に「03-xxxx-xxxxに発信しますか?」という確認ダイアログ(または電話アプリのキーパッド)が表示されます。
Googleが計測できるのは、ここまでです。
ユーザーがその後に、緑色の「発信ボタン」を押して実際に電話をかけたのか、それとも「キャンセル」を押したのかまでは追跡できません(プライバシー保護のため)。
誤タップ率は「30%〜50%」と見積もる
では、実際に発信ボタンを押す人はどれくらいいるのでしょうか。
過去の膨大なデータと通話追跡ツールによる検証の結果、一般的に以下の行動が起きていることが分かっています。
- 誤操作: スクロールしようとして指が当たった。
- 直前キャンセル: 番号が出た瞬間に「やっぱ今はいいや」「予約サイトからにしよう」「定休日だった」と思い直してやめた。
- 番号コピー: 友達にLINEで送るために、タップして番号を表示させただけ。
これらを考慮すると、管理画面上の数字の「実質的な接続率は50%〜60%程度」と見るのが妥当です。
「Googleの数字は半分くらいが本当の電話だ」
これくらいドライに見積もることで、初めて現実的な収支計算が可能になります。
第2章:最大の大罪「鳴っているのに出られない」
さて、ここからが怖い話です。
「タップしたのにかけなかった(Google側の仕様)」のが半分。
では、残りの半分は本当にかかってきたはずです。
それでも「予約が増えない」場合、原因は一つしかありません。
「店側が電話に出ていない(Opportunity Loss)」のです。
「電話に出んわ」問題:ランチピーク時の悲劇
飲食店のGoogleマップ検索が最も増えるのはいつでしょうか?
お昼前の11:30〜12:30です。
この時間帯、店内は戦場です。
ホールスタッフは配膳に走り回り、レジ対応に追われています。
そんな時に電話が鳴ったらどうなるか。
「今忙しいから出られない!」と無視するか、3コールくらいで切れてしまうか。
ユーザーはGoogleマップを見て、「今から行けるかな?」と思って電話しています。
それに出ないということは、「目の前に現れたお札(売上)をドブに捨てている」のと同じです。
「話し中」は競合店への招待状
もう一つの原因は「話し中(Call Busy)」です。
予約の電話や業者との電話で回線が埋まっている時に、新規客から電話がかかってくる。
キャッチホン機能を入れていなければ、ユーザーには「ツー、ツー」と聞こえるだけです。
Googleマップで店を探しているユーザーは、浮気性です。
「あ、話し中か。じゃあ次の店にかけよう」
すぐに検索結果に戻り、2番目に表示されているライバル店に電話をかけます。
「管理画面の数字(タップ数)」と「実際の予約数」の乖離。
その正体の半分は誤タップですが、残りの半分は「店側の体制不備による取りこぼし」である可能性が非常に高いのです。

第3章:MEO専用の「真のROI」計算式
「MEO業者に月3万円払っているけど、本当に元は取れているのか?」
この問いに即答できないのは、計算式を持っていないからです。
Googleの管理画面に出ている数字(通話数)をそのまま信用してはいけません。
第1章で解説した「誤タップ率」と、第2章の「電話対応の質」を加味した、より厳密でドライな計算式を導入しましょう。
Googleの数字を信用するな。「係数」を掛けろ
MEOの投資対効果(ROI)を算出するための「黄金の数式」がこれです。
【MEO 真の売上貢献額(月次)】
(管理画面の通話数 × 0.5) × 成約率 × LTV
- 管理画面の通話数: Googleが表示している数字。
- 係数 0.5: 誤タップや直前キャンセルを除外するための「掛け目」。厳しめに50%と設定。
- 成約率: 電話に出られて、かつ予約確定に至った割合(目安:30%〜50%)。
- LTV(顧客生涯価値): その客が将来にわたって落としてくれる利益の総額。
単発の売上ではなく、LTV(生涯顧客価値)で見る
多くのオーナー様は、ROI計算で「1回の客単価(例:3,000円)」を使ってしまいます。
しかし、MEOで獲得した新規客は、気に入ればリピーターになります。
- 間違い: 3,000円(今回の売上)
- 正解: 3,000円 × 年4回 × 2年継続 = 24,000円(LTV)
例えば、管理画面の通話数が「50件」だったとしましょう。
- 実通話数(×0.5):25件
- 予約確定(成約率40%):10組
- 売上貢献(LTV 2.4万円):24万円
月額3万円のコストで、LTVベースで24万円の売上を作った。
つまり「ROIは800%(投資額の8倍のリターン)」となります。
こう計算すれば、MEOが決して高い投資ではないことが分かります。
第4章:「問い合わせ」を「予約」に変えるトークスクリプト
ROIの計算式にある「成約率」。ここを上げるのにお金はかかりません。
必要なのは、スタッフの「電話対応(トーク)」の改善だけです。
電話は鳴っているのに予約にならない「もったいないパターン」と、その切り返し術を紹介します。
価格を聞いて切る客(Price Shopper)への対策
Googleマップを見て電話してくる人は、まだ迷っています。
客:「宴会のコース、いくらからありますか?」
店:「5,000円からです」
客:「あ、そうですか。検討します(ガチャ)」
これでは成約率ゼロです。
価格を伝える前に、必ず「価値(ベネフィット)」を伝えてください。
店:「はい、当店一番人気のコースは、朝獲れの鮮魚のお造りと、2時間の飲み放題がついて、税込み5,000円でご用意しております。
ちなみに、何名様でのご利用でしょうか?」
「高いか安いか」を判断される前に「お得そう・美味しそう」と思わせ、すかさず質問を投げかけて会話の主導権を握るのがコツです。
「空いてますか?」「満席です」ガチャ切りからの脱却
ピーク時の電話対応で最も多い機会損失です。
客:「今から2名入れますか?」
店:「すみません、今満席なんです」
客:「わかりました(ガチャ)」
満席は事実でも、そこでお客様を放流してはいけません。
必ず「代案(オルタナティブ)」を提示してください。
店:「申し訳ございません、只今は満席なのですが、13時すぎでしたらお席がご用意できそうです。
もしくは、明日の同じ時間なら個室が空いておりますが、いかがなさいますか?」
こう伝えるだけで、電話の10件に1件は「じゃあ時間をずらして行きます」となります。
この「1件」を拾えるかどうかが、月間の売上を大きく左右します。
第5章:正確なデータを取るための「通話トラッキング」
「係数を使った計算(推計値)ではなく、1円単位で正確なデータを取りたい」
そういう場合は、テクノロジーを使って解決しましょう。
MEO専用の「050番号」を発行して計測する
最も確実な方法は、Googleビジネスプロフィールに登録する電話番号を、お店の代表電話(03番号など)ではなく、「計測専用の電話番号(050番号など)」に差し替えることです。
これは「コールトラッキング」と呼ばれる手法です。
Googleマップ専用の番号を用意することで、
「この番号にかかってきた電話は、100% Googleマップを見た人からの電話だ」
と断定できます。
多くのMEO対策ツールや代理店がこの機能を提供しています。
「誤タップ」を除外した「通話秒数(例:20秒以上通話した件数)」だけをカウントできるため、ROI計算の精度が劇的に向上します。
録音機能を使ってスタッフの対応品質をチェックする
コールトラッキングツールの多くには「通話録音機能」がついています。
これを活用すると、オーナー様は後でスタッフの電話対応を聞き返すことができます。
- 「声のトーンが暗くないか?」
- 「満席の時に、ちゃんと代案を出しているか?」
- 「予約の名前を聞き間違えていないか?」
これを聞けば、成約率が低い原因が一発で分かります。
MEO対策の効果が出ない原因は、Web側ではなく、実は「電話に出たバイト君の機嫌が悪かったから」かもしれません。
そこまで突き止めて改善できるのが、データドリブンなMEO運用の醍醐味です。

終章:MEOは「投資」である
ここまで、Googleマップにおける「電話」という指標を深掘りし、その裏側にある真実と対策について解説してきました。
多くの経営者が、MEO対策を「集客のための魔法の杖」だと勘違いしています。
「お金を払って順位を上げれば、自動的にお客さんが溢れる」と。
しかし、現実は違います。
MEO対策ができるのは、「お客様を店への入り口(電話・ルート検索)まで連れてくること」までです。
最後のドアを開けさせ、席に座らせ、財布を開かせるのは、Googleのアルゴリズムではなく、あなたや現場スタッフの「対応力」です。
【本記事の結論】
- 数字を鵜呑みにしない:
管理画面の「50件」は、実質「25件」かもしれない。ドライな係数管理(×0.5)を行い、期待値を補正する。 - バケツの穴を塞ぐ:
いくらMEOで水を注いでも、電話に出なかったり、対応が悪かったりすれば、水は全て漏れていく。現場の電話教育こそが最高のMEO対策。 - LTVで計算する:
1回の売上ではなく、その顧客が将来落とす利益(LTV)で計算すれば、MEOは「やればやるほど儲かる金融商品(投資)」に変わる。
明日、お店の電話が鳴ったら、その着信音をただの「問い合わせ」だと思わないでください。
それは、MEOという投資が生み出した「配当金(リターン)」の通知音です。
「お電話ありがとうございます!」
その明るい一声で、配当金を確実に受け取ってください。
その積み重ねが、Googleマップという巨大な市場で勝ち残るための唯一の道です。