SEO/MEO対策

季節変動の読み解き方:繁忙期・閑散期に合わせたMEO予算の最適化

序章:「先月より下がった!」と騒ぐ前にカレンダーを見ろ

MEO対策を行っていると、必ず「魔の月」が訪れます。
順位は高止まりしているし、投稿も頑張っている。なのに、表示回数もルート検索数も、先月に比べてガクンと落ちている。

「アルゴリズムが変わったのか?」
「何かペナルティを受けたのか?」

慌ててコンサルタントに電話をする前に、まずはカレンダーを見てください。
その月は、あなたの業界にとって「閑散期(オフシーズン)」ではありませんか?

市場の「パイ」が小さくなれば、数字は落ちる

MEO(Googleマップ)は、需要を「作り出す」ツールではありません。
今まさに検索している需要を「受け止める」ツールです。

例えば、居酒屋業界において、忘年会シーズンの12月と、正月明けの1月後半では、世の中全体の「居酒屋」という検索回数(検索ボリューム)自体が半分以下になることもあります。
海の水(検索需要)が引いている時に、どれだけ大きな網(MEO対策)を広げても、魚は獲れません。

重要なのは、数字が落ちたことに一喜一憂することではなく、「これは季節要因なのか、それとも自社の実力不足なのか」を冷静に見極め、予算の使い道を切り替えることです。


第1章:季節変動を読み解く「YoY(前年同月比)」の鉄則

季節変動があるビジネスにおいて、MEOの成果を「先月(前月比:MoM)」と比較するのはナンセンスです。
必ず「去年の同じ月(前年同月比:YoY)」と比較してください。

Googleトレンドで「市場の波」を可視化する

まず、あなたのエリアと業種の検索トレンドを把握しましょう。
Googleが無料で提供しているツール「Googleトレンド」を使います。

  • キーワード:「居酒屋」
  • 期間:「過去5年間」

こうしてグラフを見ると、驚くほど綺麗な「波」があることが分かります。
毎年12月に山ができ、2月に谷ができる。
この波形と、あなたの店舗のインサイトデータ(パフォーマンス)を重ね合わせてみてください。

もし、「市場全体が20%落ちているのに、自店舗は10%しか落ちていない」のであれば、それは「相対的に勝っている(シェアを拡大している)」という大成功の評価になります。

「雨の日のルート検索数」を除外する

月単位だけでなく、日単位の変動要因も考慮します。
特に路面店の場合、天気はMEOの数値にダイレクトに影響します。

「先週の土曜日に比べて、今週の土曜日はルート検索が激減した!」
その原因は、写真を変えたからでも、口コミが悪かったからでもなく、単に「今週は土砂降りだったから」かもしれません。

MEOのレポートを見る際は、必ず天気予報の履歴と突き合わせ、「異常値(大雨、台風、猛暑日)」をデータから除外して評価する癖をつけてください。
そうしないと、誤った改善策(写真を変えてしまう等)を打つことになります。


第2章:繁忙期(ハイシーズン)の戦い方:刈り取り型MEO

市場の波が最高潮に達する「繁忙期」。
この時期のMEO戦略のテーマは「刈り取り(Harvest)」です。
種を蒔いたり育てたりしている時間はありません。今そこにいる魚を、一匹残らず獲り尽くすための戦術にシフトします。

戦略:露出の最大化と機会損失のゼロ化

繁忙期は、競合他社も必死です。
ユーザーは「今すぐ入れる店」を探して、次々と検索結果をスクロールしていきます。
ここで「表示されない(順位が低い)」ことは、現金をドブに捨てているのと同じです。

予算:「Googleマップ広告」に一点集中投下せよ

普段は広告を出していない店も、繁忙期だけは財布の紐を緩めてください。
「Googleビジネスプロフィール広告(ローカル検索広告)」を使い、強制的に検索結果の最上部に自店を表示させます。

繁忙期の検索ユーザーは、購買意欲(来店意欲)がMAXの状態です。
この時期に広告費をかければ、CPA(顧客獲得単価)は驚くほど安く済みます。
「今月は勝負月だ!」と決めたら、月額予算の50%〜70%をこの月の広告費に突っ込むくらいのメリハリが重要です。

運用:「空席あり」のリアルタイム投稿を連打

繁忙期のユーザーが知りたい情報は、「お店のこだわり」ではありません。
「で、今空いてるの?」という一点のみです。

この時期の投稿(最新情報)は、情緒的な文章は不要です。

【繁忙期の投稿テンプレート】
「【本日空席わずか!】
19:00〜 2名様テーブル空きました!
今すぐお電話ください!
☎ 03-xxxx-xxxx
#新宿 #居酒屋 #当日予約」

これを、毎日、なんなら1日2回(ランチ前とディナー前)投稿してください。
Googleマップで「今」を探しているユーザーに、最短距離でリーチします。

第3章:閑散期(オフシーズン)の戦い方:種まき型MEO

嵐のような繁忙期が過ぎ、客足が落ち着く閑散期。
ここで「暇になったから少し休憩しよう」と気を抜くか、それとも「次の波に乗るための準備(種まき)」をするかで、勝負は決まります。

閑散期のMEO戦略のテーマは「資産の蓄積」です。
即効性は求めず、半年後に効いてくる施策に時間と予算を使います。

戦略:資産の蓄積とクリエイティブの刷新

忙しい時期には手が回らなかった「足元の整備」を行います。
具体的には、Googleビジネスプロフィールの情報の見直し、古い写真の削除、NAP(店名・住所)の統一チェックなどです。

また、この時期はGoogleマップの順位変動も比較的穏やかな傾向にあります。
そのため、思い切って「カテゴリの変更」や「ビジネス名の修正」など、順位変動のリスクがある大きな変更を行うなら、影響の少ないこの時期がベストタイミングです。

予算:広告費を削り、「撮影費」に回す

閑散期に広告を出しても、検索する人(母数)が少ないため、CPA(獲得単価)が高騰し、非効率です。
この時期は、思い切って広告予算をゼロにしてください。

その浮いた予算をどこに使うか?
「プロカメラマンによる写真撮影」です。

閑散期なら店内も空いているので、他のお客様を気にせずじっくり撮影ができます。
ここで「最高に美味しそうな料理写真」や「清潔感のある内観写真」という強力な武器(素材)を作っておくのです。
この武器が、次の繁忙期に広告を出した際、クリック率(CTR)を爆上げするトリガーになります。

運用:口コミ返信の質を高める

普段は「ご来店ありがとうございます」と定型文になりがちな口コミ返信も、時間があるこの時期なら丁寧に書けます。

過去の口コミを遡り、返信漏れがないかチェックしたり、常連様からの口コミに長文でお礼を書いたりして、「ファンとのエンゲージメント(絆)」を深めてください。
Googleは「オーナーがアクティブに返信しているか」を評価しています。
閑散期の丁寧なコミュニケーションが、ドメインの信頼性を高め、順位の底上げに繋がります。


第4章:業種別・年間の「波」攻略カレンダー

業種によって「波」の形は異なります。
主要な3業種における、年間の予算配分イメージ(攻略カレンダー)を提示します。

飲食店:ニッパチ(2月・8月)をどう凌ぐか

  • 【12月・3月(超繁忙期)】:
    予算全振り。MEO広告で「忘年会」「歓送迎会」の幹事を取り込む。
    投稿は「個室空き状況」を毎日更新。
  • 【2月・8月(閑散期)】:
    広告停止。新メニュー開発と写真撮影に予算を回す。
    「春の新作」や「秋の味覚」の予告投稿で期待感を醸成する。

美容・サロン:イベント前の特需を狙う

  • 【3月(新生活)・7月(夏休み前)・12月】:
    検索ボリューム最大。特に7月は「縮毛矯正」など高単価メニューが出やすい。
    「夏限定クーポン」などを発行し、MEO経由の予約を最大化する。
  • 【1月・2月・10月】:
    需要が落ち込む。ここでは「既存客のリピート施策」に注力。
    MEOでは「乾燥ケア」や「頭皮ケア」など、悩み解決型のコラム投稿を増やし、閲覧数を稼ぐ。

不動産・引越し:1月〜3月の短期決戦

  • 【1月〜3月(引越しシーズン)】:
    1年間の売上の大半が決まる時期。
    予算のリミッターを解除し、エリア内の検索シェアを独占する勢いで広告を投下。
    口コミ返信は後回しでもいいので、とにかく「電話」を取ることに集中。
  • 【4月〜12月】:
    長い閑散期。ここでコツコツと「お客様の声(口コミ)」を集められるかが勝負。
    次の1月の戦いに向けて、Googleマップ上の評価点数(★4.5以上)を整えておく準備期間。

第5章:「固定予算」から「変動予算」への脱却

多くの企業が、MEO対策費やWeb広告費を「月額3万円」のように固定しています。
しかし、ここまで解説した通り、需要は毎月変動します。
需要がない月に3万円使うのは無駄ですし、需要がある月に3万円しか使わないのは機会損失です。

年間予算プール制(ダイナミック・バジェット)の導入

おすすめは、予算を月単位ではなく「年単位」で管理する方法です。

例えば、年間予算が36万円(月3万円×12ヶ月)あるとします。
これを均等に割るのではなく、以下のように配分します。

【飲食店の予算配分例(年間36万円)】

  • 3月(歓送迎会): 6万円(広告費)
  • 4月〜6月: 2万円(通常運用)
  • 7月(夏): 4万円(ビールフェア広告)
  • 8月(閑散期): 0円(完全停止・内部作業のみ)
  • 9月〜10月: 2万円(通常運用)
  • 11月(撮影): 5万円(忘年会用・プロ撮影費)
  • 12月(忘年会): 9万円(最大広告投下)
  • 1月〜2月: 1万円(メンテナンス)

合計額は同じ36万円ですが、「勝てる時に大きく賭ける」ことで、年間の総売上は間違いなくアップします。

閑散期に「あえて何もしない」という勇気

経営者にとって「広告を止める」「予算をゼロにする」というのは恐怖です。
「忘れられるのではないか?」と不安になるからです。

しかし、Googleビジネスプロフィールの情報は、予算をかけなくても消えることはありません。
無理な集客をして疲弊するよりも、「今は充電期間だ」と割り切り、スタッフの教育や店内の清掃、そしてクリエイティブの制作に時間を充てる。

この「勇気ある撤退」と「静かなる準備」ができる店舗こそが、次の繁忙期に過去最高益を叩き出すことができるのです。

終章:波を知る者は、海を制す

ここまで、季節変動(Seasonality)に基づいたMEO予算の最適化について解説してきました。

サーフィンと同じで、ビジネスも「波」がない時にパドリング(集客)を必死に続けても、体力を消耗するだけで前に進みません。
逆に、大きな波が来ているのに、それに乗る準備(予算や素材)ができていなければ、チャンスは一瞬で通り過ぎてしまいます。

多くの店舗経営者が、閑散期に「数字が落ちた」と焦り、無駄な広告費を使ってしまいます。
あるいは、繁忙期に「忙しいから」とMEOを放置し、競合にシェアを奪われてしまいます。

【本記事の結論】

MEO対策は「毎月同じペースで走るマラソン」ではありません。
「ダッシュ(繁忙期)」と「休憩・準備(閑散期)」を繰り返すインターバルトレーニングです。

  • 数字が悪い月があってもいい: それが季節要因なら、堂々と休み、次の準備をしましょう。
  • 予算は変動させていい: 「月3万円」の呪縛を捨て、年間トータルで勝つ配分に変えましょう。
  • 昨年の自分と戦う: 比較すべきは「先月」ではなく「去年の同じ月(YoY)」です。

Googleトレンドや自社の過去データを見れば、来年の「波」は予測できます。
予測ができれば、恐怖はなくなります。

「来月は暇になるぞ。よし、今のうちに最高の写真を撮っておこう」
「再来月は忙しくなるぞ。今のうちに広告予算を確保しておこう」

このように、波を読み、波を待ち、そして波に乗る。
そのコントロールができるようになった時、あなたの店舗経営は、環境に振り回される「運任せ」の状態から、自らの手で売上を操れる「盤石な状態」へと進化しているはずです。

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