SEO/MEO対策

月次レポートの作成術:オーナーや店長にMEOの成果を正しく報告する指標

序章:レポートは「報告書」ではない。「提案書」である

MEO対策の代行業者や、社内のマーケティング担当者が毎月作成する「月次レポート」。
あなたはこれを、単なる「先月の成績表」だと思っていませんか?

もしそうなら、そのレポートはゴミ箱行きです。
経営者や店長は、忙しい日々の中で「過去の数字」を眺めている暇はありません。
彼らが知りたいのは、「で、結局いくら儲かったの?」そして「次はどうすればもっと儲かるの?」という未来の話だけです。

「順位」と「売上」のギャップを埋める

よくある失敗が、順位だけを誇るパターンです。
「『新宿 居酒屋』で1位になりました!すごくないですか?」

これに対し、オーナーは冷めた目で見ます。
「でも、先月の売上は落ちてるんだけど…」

ここで会話が止まるレポートは失格です。
優れたレポートとは、「順位が上がったことで、具体的に何人の見込み客が店に誘導され、それがなぜ売上に直結しなかったのか(あるいは、これからどう直結させるか)」を論理的に説明し、オーナーの不安を解消するためのコミュニケーションツールなのです。

本記事では、Googleビジネスプロフィールの管理画面をスクショして貼っただけの「手抜きレポート」を卒業し、読むだけでオーナーがワクワクする「戦略的レポート」の作り方を伝授します。


第1章:経営者が知りたい「3階層」のKPI設計

専門用語(インプレッション、CTR、CV…)をそのまま使ってはいけません。
レポートの読み手であるオーナーや店長の脳内にある言葉に変換して伝える必要があります。
指標を以下の3つの階層に分けて整理しましょう。

第一階層:認知(看板を見た数)

【Google用語】 表示回数、検索数
【翻訳】 「お店の前を通行した人の数」

ここは「商圏での露出度」を測る指標です。
MEO対策によって順位が上がれば、当然この数字は増えます。
「今月は10,000回表示されました」と伝えるより、「先月より2,000人多くの方にお店の看板を見てもらえました」と伝えた方が、価値が伝わります。

第二階層:行動(興味を持った数)

【Google用語】 アクション数(ルート検索、通話、ウェブサイトクリック)
【翻訳】 「入店しようか迷って、ドアに手をかけた人の数」

ここがMEOにおける実質的なコンバージョン(成果)です。
ただ眺めているだけでなく、「行き方を調べた」「電話した」という能動的なアクションを起こしたユーザーは、非常に高い確率で来店します。
レポートの中で最も強調すべきは、この「行動数」の推移です。

第三階層:成果(レジを通った数)

【Google用語】 なし(推計値)
【翻訳】 「推定来店数・推定売上」

Googleの管理画面には出ませんが、ここを算出するのがプロの仕事です。
「行動数」に独自の係数を掛けて、「今月はMEO経由で約〇〇名の来店があり、約〇〇万円の売上貢献があったと推測されます」と言い切る。
ここまで書いて初めて、経営者は「なるほど、MEOには投資する価値があるな」と納得します。


第2章:新機能「パフォーマンス」指標の完全解読

Googleビジネスプロフィールの分析機能は、従来の「インサイト」から「パフォーマンス」へと移行しました。
より正確なデータが取れるようになった反面、見方が少し複雑になっています。
レポートに記載すべき重要項目をピックアップします。

「プラットフォームとデバイス」の内訳

パフォーマンス画面では、ユーザーがどこから検索したかが4つに分類されます。

  1. Google検索 – モバイル
  2. Google検索 – パソコン
  3. Googleマップ – モバイル
  4. Googleマップ – パソコン

この中で最も重要なのは「3. Googleマップ – モバイル」です。
なぜなら、スマホアプリで地図を見ているユーザーは、「今すぐ移動しようとしている(即時来店ニーズ)」可能性が最も高いからです。

レポートでは「全体の表示回数」だけでなく、「スマホのGoogleマップからの流入が前月比120%です。これは、今すぐ客が増えている証拠です」と補足を入れると説得力が増します。

「直接検索」と「発見検索」の黄金比率

ユーザーがどんなキーワードで探したかも重要です。

  • 直接検索(指名検索): 「スターバックス 新宿」など、店名で検索。
  • 発見検索(間接検索): 「新宿 カフェ」など、業種やニーズで検索。

MEO対策の成果と言えるのは、後者の「発見検索」の伸びです。
既存客や知り合いしか検索しない「直接検索」が増えても、それは新規集客とは言えません。

「全体のアクセス数は横ばいですが、新規客につながる『発見検索』の割合が40%から60%に増えています。店舗の知名度が底上げされています」
このように、数字の中身(質)の変化を報告することが重要です。

第3章:「来店コンバージョン」をどう算出するか?

MEOレポートにおける最大の課題は、「Web上のクリックが、実際に何人の来店につながったか(オフライン成果)」が見えないことです。
しかし、ここを「分かりません」で終わらせてはいけません。

過去の統計データや経験則に基づき、クライアントと合意した「係数(コンバージョン率)」を使って、推定値を算出するのです。
これがあるのとないのとでは、レポートの価値が天と地ほど変わります。

MEO最大の難関を超える「魔法の計算式」

業種や立地によって異なりますが、一般的に以下の計算式が、実態に即した「推定来店数」として使われます。

【MEO推定来店数 モデル式】

(ルート検索数 × 30%) + (通話数 × 50%) + (Web閲覧 × 5%)

※係数の根拠:
ルート検索(30%): ナビを開始しても、途中で別の店に入ったり、ただ場所を調べただけの人もいるため、実来店は3割程度と仮定。
通話(50%): 予約や空席確認の電話。半数は「満席」「質問のみ」で終わると仮定し、残り半分を来店とみなす。
Web閲覧(5%): メニューや雰囲気を見る段階。来店確度は低いため厳しめに見積もる。

このロジックを、契約の初月にオーナーと握っておくことが重要です。
「Googleからは正確な来店数は出ませんが、この計算式で毎月の成果を計測しましょう」と合意を得ておけば、毎月の報告でブレることがなくなります。

ROI(投資対効果)を可視化する

推定来店数が出れば、あとは「客単価」を掛けるだけで「推定売上貢献額」が出せます。

  • 推定来店数:100人
  • 客単価:3,000円
  • MEO推定売上:300,000円

もし、MEO対策費が月額3万円だとしたら?
「3万円の投資で、30万円の売上を作りました。ROI(費用対効果)は1000%です

ここまで言い切って初めて、経営者は「MEOはコストではなく、儲かる投資だ」と認識し、契約を継続してくれます。


第4章:数字が悪い時の「リカバリー報告術」

どんなに優れたマーケターでも、毎月数字を上げ続けることは不可能です。
天候、季節、Googleのアルゴリズム変更などで、ガクンと数字が落ちる月は必ず来ます。

この時、ダメな担当者は「すみません、下がりました」とだけ報告します。
プロの担当者は、「下がった理由」と「次の対策」をセットにして、逆に信頼を高めるチャンスに変えます。

絶対にやってはいけない「言い訳」と「隠蔽」

最悪なのは、数字が悪い項目をレポートから消したり、グラフの縮尺を変えて誤魔化そうとすることです。
経営者は数字の違和感に敏感です。隠蔽がバレた瞬間、契約は終了します。
「今月はルート検索数が前月比80%に落ち込みました」と、悪い数字ほど真っ先に、正直に報告してください。

外部要因(天候・季節・競合)をデータで証明する

「なんとなく下がった」ではなく、論理的な理由を探します。

  • 天候要因: 「週末のたびに雨や台風が重なり、エリア全体の外出需要が減りました(過去の天気データ添付)」
  • 季節要因(YoY): 「前月(12月)と比較すると下がっていますが、閑散期である2月としては、昨年対比(YoY)で110%成長しています」
  • 競合要因: 「近隣に大手チェーン店がオープンし、一時的に検索需要が流れています」

このように、「施策が悪かったわけではなく、環境要因である」ことをデータで証明できれば、オーナーも「それなら仕方ないね」と納得してくれます。

「下がった」ではなく「伸び代が見つかった」と変換する

さらに一歩進んで、ポジティブな提案に変えます。

「表示回数は増えているのに、ルート検索だけが減っています。
これは『写真は見られているが、決め手に欠けている』という状態です。
つまり、トップ写真を魅力的なものに変えれば、数字はすぐに回復する『伸び代』があります。来月は写真のA/Bテストを行いましょう」

ピンチをチャンス(課題解決の糸口)として語れるかどうかが、プロの腕の見せ所です。


第5章:競合比較と「定性情報」の重要性

数字(定量データ)だけでなく、数字に表れない変化(定性データ)や、ライバル店との位置関係を報告することも重要です。

順位チェックツール(Grid)のヒートマップ活用

「平均順位 3.5位」という数字だけでは、オーナーは実感が湧きません。
専用の順位チェックツールを使い、地図上に順位をマッピングした「ヒートマップ(グリッドデータ)」を見せてください。

「お店の北側エリア(住宅街)では1位を取れていますが、駅の南側(オフィス街)では競合A店に負けています。
来月は、南側のユーザーに向けた『ランチ投稿』を増やして、このエリアを緑色(上位)に変えていきましょう」

このように視覚的に戦況を伝えることで、オーナーもゲーム感覚で戦略に参加できるようになります。

口コミ分析:数字には表れない「顧客の感情」

アクセス数が横ばいでも、口コミの質が変わっていれば、それは大きな成果です。

「今月は、これまで多かった『提供が遅い』というネガティブな口コミがゼロになり、逆に接客を褒める★5の口コミが3件増えました。
これはMEO対策だけでなく、現場の皆様の努力の成果です。
Googleの評価も確実に上がっているので、来月以降の順位上昇が期待できます」

現場スタッフのモチベーションを上げるような報告を入れることで、MEO担当者は「外部業者」から「チームの一員」へと昇格できます。

第6章:来月の予算を引き出す「ネクストアクション」の提示

レポートの最後のページは、最も重要です。
ここが空白だったり、「来月も引き続き監視します」といった定型文で終わっていたりするレポートは、オーナーにとって読む価値がありません。

ビジネスは常に「次の一手」を求めています。
分析結果に基づいた具体的なアクションプランを提示し、オーナーの合意(承認)を取り付けること。
これがレポート報告会のゴールです。

レポートの締めくくりは必ず「来月の作戦」

「数字の報告」は過去の話ですが、「ネクストアクション」は未来の話です。
以下のように、具体的かつ、オーナーがワクワクするような作戦を記載してください。

【〇〇月の戦略プラン】

■課題:
ルート検索数は順調だが、電話予約の数が伸び悩んでいる。

■仮説:
「コース料金」が明記されておらず、予算感が分からないため電話をためらっている可能性がある。

■来月の具体的アクション:
1. メニューページに「税込み価格」と「ポッキリ宴会プラン」を目立つように追加する。
2. 投稿機能で「お一人様3,000円〜」と書かれた画像を毎週配信する。

■期待される成果:
電話数(Calls)の前月比 110% アップを目指す。

このように、「課題→仮説→行動→目標」がセットになっていれば、オーナーは「なるほど、任せたよ」と即決してくれます。

「写真を変えます」「投稿を増やします」への期待値コントロール

新しい施策を提案する際、期待値を上げすぎないこともテクニックです。
「写真をプロのものに変えれば、絶対にお客さんが倍増します!」と言い切るのは危険です(もし増えなかった時に信用を失います)。

「まずは2週間、テスト運用をさせてください」
「反応率がどう変わるか、データを取ってみましょう」

このように、「実験(トライアル)」としての合意を取ることで、失敗した時のリスクヘッジをしつつ、オーナーに「一緒に正解を探すパートナー」としての姿勢を示すことができます。

オーナーを巻き込むための「宿題(To Do)」の渡し方

MEOは、外部業者だけでは完結しません。
現場での写真撮影や、お客様への口コミ依頼など、店舗側の協力が不可欠です。
しかし、忙しい店長に「やってください」と丸投げしても動きません。

レポートの最後で、優しく、しかし明確に「宿題」を渡しましょう。

「来月、MEOの効果を最大化するために、店長に一つだけお願いがあります。
新メニューの『ハンバーグ』の写真を、スマホで構いませんので3枚撮って、私にLINEで送ってください。
それさえ頂ければ、あとの加工と投稿は全て私がやります」

「これだけでいいの?」と思わせるレベルまでハードルを下げて依頼すること。
この小さな共同作業の積み重ねが、強固な信頼関係を築きます。


終章:レポートは信頼の架け橋

長きにわたり、「月次レポートの作成術」について解説してきました。

最後に、MEO担当者の皆様に伝えたいことがあります。
レポート作成は、面倒な「事務作業」ではありません。
あなたの頑張りと、お店の成果を繋ぐ「翻訳(トランスレーション)」の作業です。

Googleの管理画面に並ぶ無機質な数字の羅列。
それを、「この数字の向こう側には、お店に来て笑顔になったお客様がこれだけいます」という温かい物語に変換して伝えること。

「順位が1つ上がった」
たったそれだけの事実を、「競合に勝った」「ブランド価値が上がった」「未来の売上が増えた」という価値ある言葉に変えて届けること。

それができる人だけが、単なる「業者」や「作業員」の枠を超え、経営者にとって代わりの利かない「ビジネスパートナー」になれるのです。

来月のレポートの日が、憂鬱な日ではなく、オーナーと未来を語り合う「楽しみな日」に変わることを願っています。

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