序章:MEOの順位を下げる「見えない穴」
「SNSも頑張っている、ポータルサイトにも載っている、口コミも増えている。なのに、なぜかGoogleマップの順位だけが上がらない…」
このような相談を受けた時、私たちが真っ先にチェックする項目があります。
それは、Web上に散らばっている「店名・住所・電話番号」の表記が、一言一句統一されているかどうかです。
これを専門用語で「NAP(ナップ)」と呼びます。
- Name(店名)
- Address(住所)
- Phone(電話番号)
Googleのクローラー(ロボット)は、非常に厳格です。
ほんの少しの表記の違いで、「これはA店とB店、それぞれ別の店かもしれない」と判断し、せっかく集めた評価(サイテーション)を分散させてしまうことがあります。
バケツにいくら水を注いでも、底に「NAP不一致」という穴が空いていれば、水(評価)は溜まりません。
本記事では、この見えない穴を塞ぎ、Web上の評価を一点に集中させるための「NAP統一戦略」について解説します。
第1章:なぜ「1文字」違うだけで評価が消えるのか?
人間なら、「スターバックス新宿店」と「スタバ 新宿店」が同じ店だと瞬時に分かります。
しかし、Googleの検索アルゴリズム(AI)は、データを処理する機械です。
基本的には「文字列が一致しているか」で判断を行っています。
「ポイントカード」に例えると分かる、評価分散の悲劇
NAPの不一致は、「名前の違うポイントカードを何枚も持っている状態」に似ています。
- カードA(食べログ):100ポイント獲得
- カードB(インスタ):50ポイント獲得
- カードC(自社HP):80ポイント獲得
もし、これら3つのカードの名義(NAP)が完全に一致していれば、合計230ポイントの強力なパワーを持つ店として、Googleマップの上位に表示されます。
しかし、もし微妙に名前や住所が違っていたらどうなるでしょう。
Googleはこれらを「別人のカード」として処理し、合算してくれません。
結果、あなたの店は「たった80ポイントの弱小店」として扱われ、200ポイント持っているライバル店に負けてしまうのです。
Googleのデータベース構造:名寄せ(Data Merging)
GoogleはWeb上の情報を収集する際、「名寄せ(Merge)」という処理を行っています。
「電話番号が同じで、住所もほぼ同じだから、これは同じ店だな」と判断してデータを統合します。
最近のAIは賢くなっているため、多少の違いは補正してくれますが、それでも完璧ではありません。
特に競合が激しいエリア(新宿、渋谷など)では、この「機械が迷わず統合できる状態」を作ってあげることが、順位を分ける決定打になります。
第2章:日本特有の「NAPトラップ」事例集
英語圏と違い、日本語には「全角・半角」「漢字・カタカナ」など表記のバリエーションが多すぎるため、世界で最もNAP統一が難しい言語と言われています。
よくある失敗パターン(トラップ)を見てみましょう。
全角・半角問題(数字とハイフン)
最も多いミスがこれです。
- Googleマップ:東京都渋谷区神南1-1-1(すべて半角)
- ホームページ:東京都渋谷区神南1-1-1(すべて全角)
- 食べログ:東京都渋谷区神南1丁目1番地1号(漢字表記)
Googleマップは基本的に「半角英数字(1-2-3)」を好みます。
ホームページやSNSに登録する住所も、Googleマップの表記に合わせて「半角」で統一するのが鉄則です。
ビル名・階数問題
ビル名の有無や、階数の書き方もバラつきがちです。
- パターンA:渋谷ビル 2F
- パターンB:渋谷ビル 2階
- パターンC:渋谷ビル201(部屋番号のみ)
「F」なのか「階」なのか。Googleビジネスプロフィールに登録した表記(例:2F)を正解とし、他のサイトもすべて「2F」に書き換えてください。
スペース(空白)問題
店名の間にスペースを入れるかどうかも重要です。
- ヘアサロン〇〇(スペースなし)
- ヘアサロン 〇〇(半角スペースあり)
- ヘアサロン 〇〇(全角スペースあり)
特に美容室やネイルサロンで、「英語の店名」を「カタカナ」にする際にこの揺らぎが発生します。
「読みやすさ」よりも「一致率」を優先してください。
Googleビジネスプロフィールの店名設定を一言一句コピーし、それを全媒体にペーストする習慣をつけましょう。

第3章:あなたの店は大丈夫?「NAP診断」のやり方
修正作業に取り掛かる前に、まずは現状のWeb上がどれくらい散らかっているか(あるいは整っているか)を把握しましょう。
Google検索を使った簡単な診断方法があります。
Google検索コマンドを使った現状把握
Googleの検索窓に、あなたの店の電話番号を**ダブルクォーテーション(” “)**で囲って入力し、検索してください。
こうすると、その電話番号が記載されているWebページだけがリストアップされます。
検索結果を上から順に見ていき、住所や店名の表記がバラバラになっていないかチェックします。
もし、検索結果に古い住所や、昔の店名が表示されていたら、そこが「評価漏れ」の原因となっている穴です。
Excelで作る「自社マスターデータ」のテンプレート
NAP統一を成功させるコツは、**「正解データ(マスター)」を一つ決めること**です。
おすすめは、Googleビジネスプロフィール(GBP)の登録情報を「正(マスター)」とすることです。
- 店名: 〇〇カフェ 新宿南口店(スペースも正確に)
- 郵便番号: 160-0000(ハイフンありで統一)
- 住所: 東京都新宿区新宿4-1-6(半角数字)
- ビル名: 新宿ミライナタワー 1F(Fか階かも決める)
- 電話番号: 03-xxxx-xxxx(市外局番から)
この5項目をExcelやスプレッドシートに保存し、今後あらゆるサイトに登録する際は、**「必ずここからコピペする(手打ちは禁止)」**というルールを社内で徹底してください。
第4章:修正優先度が高い「主要メディア」リスト
Web上には無数のサイトがありますが、MEOへの影響度が大きい「修正必須」のメディアから順番に着手しましょう。
優先度SS:公式サイトとSNS
まずは、自社でコントロールできるメディアです。ここは100%一致させなければなりません。
- 自社ホームページ: フッター(最下部)や会社概要ページ。
- SNS(Instagram / X / Facebook): プロフィール欄。特にFacebookはGoogleが強く参照するため最重要。
- LINE公式アカウント: プロフィールページ。
優先度S:大手ポータル・求人サイト
次に、ドメインパワーが強い大手サイトです。
- 食べログ、ホットペッパー、ぐるなび、Retty
- Indeed、タウンワーク、求人ボックス
- エキテン、Yahoo!プレイス、TripAdvisor
これらのサイトはGoogleからの信頼が厚いため、ここの情報が間違っていると、Googleマップの評価に直撃します。
ログインIDを忘れている場合も多いですが、根気よくパスワードを再発行し、修正を行ってください。
第5章:どうしても直せない「個人ブログ」等の扱い
「5年前に来店した個人ブロガーさんが、古い住所のまま記事を放置しているのですが、訂正をお願いすべきですか?」
という質問をよく頂きます。
結論:基本的には放置でOK
影響力の小さい個人ブログや、掲示板の書き込みまで神経質に修正する必要はありません。
問い合わせフォームから修正依頼を送っても無視されることが多く、労力に見合わないからです。
GoogleのAIも進化している
現在のGoogleのAIは、多少の表記揺れがあっても「文脈」で判断できるようになってきています。
特に「電話番号」さえ一致していれば、高い確率で「同じ店」として紐付けてくれます。
重要なのは、情報の「量」ではなく「質(権威性)」です。
公式サイトや大手ポータルサイトなど、「Googleが信頼している主要なサイト」の情報さえ完璧に統一されていれば、MEO対策としては90点で合格です。
細かいノイズは気にせず、主要メディアの管理に集中しましょう。
終章:神は細部に宿る
ここまで、NAP(店名・住所・電話番号)の統一について解説してきました。
正直なところ、NAP統一の作業は地味です。
クリエイティブでもないし、やっていて楽しい作業でもありません。
しかし、建築で言えば「基礎工事」にあたる最も重要な部分です。
どれだけ美しいビル(写真や投稿)を建てても、基礎(NAP)がズレていれば、Googleという巨大地震が起きた時(アルゴリズム変動時)に真っ先に倒壊します。
逆に、NAPが強固に統一されている店は、何があっても順位が安定し続けます。
「神は細部に宿る」と言います。
MEOにおける神様(Google)は、あなたが「半角スペース」を入れるかどうかの細部にまで、目を光らせています。
ぜひ一度、自社の情報を検索してみてください。
その小さなズレを直すことが、地域一番店への大きな一歩になるはずです。