「サクッ」「シュワー」「カリカリ」——。
これらの音を聞いただけで、何かを食べたくなったり、心地よい感覚を覚えたりした経験はありませんか。近年、YouTubeやTikTokを中心に爆発的な人気を誇るASMR(Autonomous Sensory Meridian Response)動画。この「音」の力を活用した動画コンテンツは、もはやリラクゼーション目的だけにとどまりません。
今、最も注目すべきは「ASMR×商品紹介」という新しいマーケティング手法です。従来の商品紹介動画が「見せる」ことに重点を置いていたのに対し、ASMR商品紹介は「聴かせる」ことで、視聴者の五感に直接訴えかけます。パッケージを開封する音、商品を手に取る音、使用時の音——これらすべてが、視聴者の購買意欲を刺激する強力なトリガーとなるのです。
私は映像制作会社で7年間、企業のプロモーション動画を手がけてきました。その中で、ASMR要素を取り入れた商品紹介動画の制作依頼が、ここ2年で5倍以上に増加しています。化粧品、食品、文房具、電子機器——ジャンルを問わず、「音で売る」時代が本格的に到来しているのです。
この記事では、ASMR動画の編集テクニックを基礎から応用まで徹底解説します。録音の基本から、編集ソフトでの音声処理、視覚と聴覚を融合させる演出方法まで、プロの現場で培ったノウハウを余すところなくお伝えします。「耳で売る」商品紹介の世界へ、一緒に踏み出しましょう。
第1章:ASMRとは何か——「耳で感じる」コンテンツの正体

1-1. ASMRの定義と歴史
ASMR(Autonomous Sensory Meridian Response)は、日本語で「自律感覚絶頂反応」と訳されます。特定の音や視覚的刺激によって引き起こされる、頭皮や首筋がゾクゾクするような心地よい感覚を指します。この感覚は「ブレインオーガズム」や「ブレインティングル」とも呼ばれ、多くの人がリラクゼーションや入眠促進のために ASMR コンテンツを視聴しています。
ASMRという言葉が生まれたのは2010年。アメリカのジェニファー・アレンという女性が、自身が長年感じていたこの不思議な感覚に名前を付けたことが始まりです。それ以前から、囁き声の動画やロールプレイ動画は存在していましたが、「ASMR」という共通言語ができたことで、コミュニティが急速に拡大しました。
2020年代に入り、ASMRは単なるニッチなジャンルから、メインストリームのコンテンツへと成長しました。YouTubeでは「ASMR」の検索回数が年間数十億回に達し、専業のASMRクリエイター(通称「ASMRtist」)の中には、数百万人の登録者を持つ者も珍しくありません。
1-2. ASMRを引き起こすトリガーの種類
ASMRを引き起こす刺激は「トリガー」と呼ばれ、人によって反応するトリガーは異なります。商品紹介動画を制作する上で理解しておくべき主要なトリガーを紹介します。
聴覚的トリガーとして最も一般的なのは「ウィスパリング(囁き声)」です。小さく柔らかい声で語りかけることで、親密感と安心感を与えます。商品の説明をウィスパーで行うだけで、通常のナレーションとは全く異なる印象を与えることができます。
「タッピング」は、指先で物を軽く叩く音です。商品のパッケージや本体を指でタップする音は、素材感を伝えると同時に、心地よいリズムを生み出します。木製、金属、プラスチック、ガラスなど、素材によって音色が変わるため、商品の質感を「聴覚」で伝えることができます。
「スクラッチング」は、爪や指で表面を引っ掻く音です。テクスチャーのある素材、例えばマット加工のパッケージや布製品などで効果的です。触り心地の良さを音で表現できます。
「クリンクリング」は、包装紙やビニール袋などをくしゃくしゃにする音です。開封動画(アンボクシング)において非常に人気の高いトリガーで、新品を開ける「特別感」を演出します。
「イーティングサウンド」は、食べ物を咀嚼する音です。食品の商品紹介では欠かせないトリガーで、サクサク、カリカリ、とろーりといった食感を音で伝えることで、視聴者の食欲を刺激します。
「リキッドサウンド」は、液体に関連する音です。化粧水をシェイクする音、クリームを容器から出す音、飲み物を注ぐ音など、みずみずしさや清涼感を伝えるのに効果的です。
1-3. なぜASMRが商品紹介に効果的なのか
従来の商品紹介動画は、視覚情報と言葉による説明が中心でした。しかし、人間の記憶と感情は、五感のうち「音」と「匂い」に最も強く結びついていることが心理学研究で明らかになっています。ASMRを活用することで、視覚だけでは伝えきれない商品の魅力を、聴覚を通じてダイレクトに伝えることができるのです。
また、ASMR動画には独特の「没入感」があります。ヘッドホンやイヤホンで視聴することが推奨されるASMRは、視聴者を「個人的な空間」に引き込みます。まるで誰かが耳元で商品を紹介してくれているような親密な体験は、ブランドへの好感度と信頼感を高める効果があります。
さらに、ASMR動画は視聴時間が長い傾向にあります。リラクゼーション目的で視聴する人が多いため、通常の広告動画のように数秒でスキップされることが少なく、商品の魅力をじっくり伝える時間を確保できます。
第2章:ASMR動画制作の機材と環境
2-1. マイク選びが成功の8割を決める
ASMR動画において、音質はすべてです。どれだけ優れた編集技術を持っていても、録音段階の音質が悪ければ、クオリティの高いASMR動画は作れません。マイク選びこそが、ASMR動画制作の成否を分ける最重要ポイントです。
ASMR録音に最適なのは「コンデンサーマイク」です。ダイナミックマイクに比べて感度が高く、繊細な音を拾うことができます。特に、大型のダイアフラム(振動板)を持つラージダイアフラムコンデンサーマイクは、低音から高音まで幅広い周波数を美しく収録できるため、ASMR録音に向いています。
入門者におすすめのマイクとして、Audio-Technica AT2020があります。1万円台で購入でき、コストパフォーマンスに優れた定番モデルです。RODE NT1-Aは、超低ノイズ設計で知られ、静かな環境での録音に最適です。Blue Yetiは、USB接続で手軽に使え、4つの指向性パターンを切り替えられるため、様々な録音シチュエーションに対応できます。
より本格的なASMR録音を目指すなら、「バイノーラルマイク」の導入を検討しましょう。バイノーラル録音は、人間の耳の位置にマイクを配置することで、立体的な音場を再現する技術です。3DioのフリースペースやローランドのCS-10EMなど、専用のバイノーラルマイクを使用することで、視聴者はまるでその場にいるかのような臨場感を味わえます。
2-2. 録音環境の整備
どれだけ高価なマイクを使っても、録音環境が悪ければ台無しです。ASMR録音において最大の敵は「ノイズ」と「反響」です。
環境ノイズの排除が第一歩です。エアコンの動作音、冷蔵庫のコンプレッサー音、窓の外の交通音、隣室の生活音——普段は気にならないこれらの音が、高感度マイクではすべて拾われてしまいます。録音前に、電化製品の電源を切り、可能であれば最も静かな時間帯(深夜など)に録音することをお勧めします。
部屋の反響を抑えることも重要です。硬い壁や床に音が反射すると、「部屋鳴り」が発生し、音がこもったり、不自然なエコーがかかったりします。対策として、厚手のカーテンやカーペットを敷く、壁に吸音パネルを設置する、クローゼットの中など狭い空間で録音するといった方法があります。
本格的な防音・吸音環境を構築するなら、リフレクションフィルター(マイク背面に設置する吸音パネル)の導入が効果的です。また、可能であれば、組み立て式の簡易防音ブースを設置することで、プロ品質の録音環境を実現できます。
2-3. カメラと照明の選定
ASMR動画は「音」が主役ですが、「映像」も重要な要素です。視聴者は音を聴きながら、同時に映像も見ています。商品紹介であれば、商品の美しさを視覚的にも伝える必要があります。
カメラは、4K撮影が可能なものを推奨します。ASMR動画では、商品のディテールをクローズアップで撮影することが多いため、高解像度であるほど質感を美しく伝えられます。ミラーレス一眼カメラであれば、ソニーのα7シリーズやキヤノンのEOS Rシリーズなどが定番です。予算を抑えたい場合は、iPhone 13以降のモデルでも十分なクオリティの映像が撮影できます。
照明は、柔らかく均一な光を作ることを心がけます。強い影やコントラストは、リラックスを目的とするASMR動画には不向きです。LEDリングライトやソフトボックスを使用し、ディフューザー(光を拡散させるフィルター)を通した柔らかい光で商品を照らしましょう。色温度は、暖色系(3000〜4000K)の方が、落ち着いた雰囲気を演出できます。
2-4. その他の必要機材
マイク、カメラ、照明以外にも、ASMR動画制作に必要な機材があります。
オーディオインターフェースは、コンデンサーマイクをPCに接続するために必要です。マイクに電源(ファンタム電源)を供給し、アナログ音声をデジタルに変換します。Focusrite Scarlett 2i2やSteinberg UR22Cなどが人気モデルです。
マイクスタンドとショックマウントも欠かせません。マイクを安定して固定し、机やスタンドからの振動がマイクに伝わるのを防ぎます。ブームアームタイプのスタンドを使えば、自由な位置にマイクを配置できます。
ポップフィルターは、息による破裂音(ポップノイズ)を軽減するためのフィルターです。ウィスパリングで商品説明を行う場合は必須アイテムです。
モニターヘッドホンは、録音時のモニタリングと編集作業に使用します。密閉型で、フラットな周波数特性を持つものを選びましょう。ソニーのMDR-7506やオーディオテクニカのATH-M50xが業界標準とされています。
第3章:録音テクニックの基本と応用

3-1. マイキングの基本
マイキング(マイクの配置と距離の調整)は、ASMR録音において最も重要なテクニックの一つです。同じマイクを使っても、マイキングが変われば、録れる音は全く違ったものになります。
ASMRでは、音源とマイクの距離を「近づける」ことが基本です。遠くから録音すると、環境音や反響が混ざり、音が薄くなってしまいます。商品のパッケージを開ける音を録るなら、マイクから10〜30cm程度の距離で行うのが理想的です。
ただし、近すぎると「近接効果」により低音が過度に強調されることがあります。特に、声を録音する場合は注意が必要です。テスト録音を行い、最適な距離を見つけましょう。
マイクの指向性(音を拾う方向のパターン)も重要です。カーディオイド(単一指向性)は、正面の音を中心に拾い、背面からの音を抑制します。一つの音源を録る場合に適しています。オムニ(無指向性)は、全方向から均等に音を拾います。自然な空間の響きを収録したい場合に有効です。ステレオ録音やバイノーラル録音では、左右のマイクで立体的な音場を作り出します。
3-2. 商品別の録音テクニック
商品のジャンルによって、効果的な録音テクニックは異なります。代表的なジャンル別のテクニックを紹介します。
化粧品・スキンケア商品の録音では、液体やクリームの「質感」を音で表現することがポイントです。化粧水をボトルから出す音、クリームを手のひらに取る音、肌に塗り広げる音——これらを丁寧に録音します。容器のキャップを開閉する音や、ポンプを押す音も重要なトリガーになります。手指の動きによるスキンケアサウンドを録る際は、少量のオイルや水を手に塗っておくと、より心地よい音になります。
食品の録音では、咀嚼音(イーティングサウンド)が中心になります。マイクを口元に近づけ、食べる音をクリアに収録します。ASMRでは、通常よりも「大きく口を開けて食べる」ことで、咀嚼音が強調されます。また、食品をパッケージから取り出す音、袋を開ける音、飲み物を注ぐ音なども、食欲を刺激する重要な要素です。ただし、咀嚼音は好き嫌いが分かれるトリガーでもあるため、ターゲット視聴者を意識して取り入れましょう。
文房具・雑貨の録音では、素材感を伝えることが重要です。紙のページをめくる音、ペンでノートに書く音、はさみで紙を切る音——これらは「触覚」を想起させる音として、多くの人に心地よさを与えます。複数の素材(木、金属、プラスチック、革など)を使った商品であれば、それぞれの素材をタッピングして音の違いを聴かせることで、商品の質感を立体的に伝えられます。
電子機器の録音では、ボタンを押す音、タッチスクリーンの操作音、キーボードのタイピング音などが人気のトリガーです。特にメカニカルキーボードの打鍵音は、ASMRコミュニティで非常に人気があります。また、機器のファンやモーターが発する微細なホワイトノイズも、リラックス効果のある音として活用できます。
3-3. ウィスパリング(囁き声)のテクニック
商品説明をウィスパーで行う場合のテクニックを解説します。
ウィスパリングは、単に「小声で話す」こととは異なります。声帯を震わせず、息だけで音を作る「無声音」を多用することがポイントです。日本語では、「さ行」「は行」「か行」などが無声音になりやすく、これらの音が多いフレーズは、ウィスパリングで特に心地よく響きます。
マイクとの距離は、通常の会話より近め(10〜20cm程度)に設定します。ただし、息がマイクに直接当たるとポップノイズが発生するため、ポップフィルターの使用は必須です。また、マイクの正面ではなく、やや斜め横から話すことで、破裂音を軽減できます。
話すスピードは、通常よりもゆっくりと。一語一語を丁寧に発音し、適度な「間」を取ることで、心地よいリズムが生まれます。商品の特徴を説明する際も、情報を詰め込みすぎず、視聴者が音を味わう余裕を残しましょう。
3-4. レイヤリングと録音の順序
ASMR動画では、複数の音を「レイヤリング(重ねる)」することで、より豊かな音の世界を作り出せます。ただし、録音の段階では、各音を「別々に」収録することをお勧めします。
例えば、商品の開封シーンを撮影する場合、まず映像を撮影し、その後に開封音だけを別撮りする「アフレコ方式」も有効です。撮影時は映像に集中し、音声は後から最適な環境で録音することで、両方のクオリティを高められます。
録音の順序としては、まずメインとなるサウンド(商品の使用音など)を録音し、次にウィスパリングによる説明、最後に環境音やアンビエンスを追加していくのが一般的です。編集時にレベル調整やタイミング調整がしやすくなります。
第4章:編集ソフトと基本操作
4-1. ASMR編集に適したソフトウェア
ASMR動画の編集には、音声編集に強いソフトウェアを選ぶことが重要です。代表的な選択肢をご紹介します。
Adobe Auditionは、音声編集に特化したプロフェッショナルソフトです。ノイズリダクション、マルチトラック編集、周波数分析など、ASMR編集に必要な機能がすべて揃っています。Adobe Premiere Proと連携して使用することで、映像と音声を効率的に編集できます。
DaVinci Resolveは、映像編集と音声編集の両方に強い統合型ソフトです。無料版でも十分な機能を持ち、特にFairlightという音声編集機能は、プロレベルのオーディオポストプロダクションが可能です。コストを抑えたい方には最適な選択肢です。
Audacityは、無料で使えるオープンソースの音声編集ソフトです。基本的なカット編集、ノイズ除去、エフェクト適用などが可能で、入門者が最初に使うソフトとしておすすめです。ただし、映像との同期編集はできないため、映像編集ソフトと併用する必要があります。
Logic Pro(Mac専用)やPro Tools(業界標準)は、音楽制作にも使用されるハイエンドなDAW(デジタルオーディオワークステーション)です。ASMR編集においても、その高度な音声処理機能を活かすことができます。
4-2. 基本的な編集ワークフロー
ASMR動画の基本的な編集ワークフローを解説します。
第一ステップは素材の取り込みと整理です。録音した音声ファイルと撮影した映像ファイルを編集ソフトに取り込み、シーンや内容ごとに整理します。ファイル名を分かりやすく付けておくと、後の作業が効率的になります。
第二ステップは映像と音声の同期です。映像撮影時に録音した音声を基準に、別撮りした高品質な音声を同期させます。多くの編集ソフトには自動同期機能がありますが、ASMR音声は波形が小さいため、手動で合わせる必要があることも多いです。同期の目安として、映像に映っている動作(例:パッケージを開ける瞬間)と音声のタイミングを合わせます。
第三ステップは不要部分のカットです。言い間違い、ノイズ、長すぎる間などをカットします。ただし、ASMRでは「間」も大切な要素なので、すべての沈黙を埋める必要はありません。視聴者が音を味わう「余白」を残すことを意識しましょう。
第四ステップは音声処理(後述)です。ノイズ除去、イコライジング、コンプレッションなど、音声を磨き上げる処理を行います。
第五ステップはレベル調整とミキシングです。複数の音声トラックのバランスを調整し、一つの作品としてまとめます。
第六ステップは映像のカラーグレーディングです。音声編集とは直接関係ありませんが、温かみのある色調に調整することで、ASMR動画全体の雰囲気が向上します。
最終ステップは書き出しです。適切なフォーマットとビットレートで書き出します。音質を維持するため、音声のビットレートは256kbps以上を推奨します。
4-3. タイムライン構成の考え方
ASMR商品紹介動画のタイムライン構成について、効果的なパターンをご紹介します。
オープニング(0:00〜0:30)では、視聴者を動画の世界に引き込む導入部分を作ります。静かなアンビエントサウンドや、商品の全体像を見せるショットから始め、徐々にASMRサウンドへと移行していきます。最初から強いASMRサウンドで始めるのではなく、ソフトランディングを心がけましょう。
商品紹介パート(0:30〜)では、商品の外観、パッケージ、開封、使用といった流れで構成します。各シーンで、その商品ならではのASMRサウンドを丁寧に聴かせます。ウィスパリングによる説明は、要所要所に挿入しますが、音だけで楽しめるシーンも十分に設けましょう。
ハイライト・リピートパート(動画中盤〜後半)では、特に心地よいサウンドやビジュアルを、異なるアングルやテンポで繰り返します。ASMR視聴者は、好きなサウンドを繰り返し聴きたいと感じるため、「お気に入りのシーン」を複数用意することで、満足度が高まります。
エンディング(終盤)では、徐々に音量を下げながら、穏やかに締めくくります。急に音が途切れたり、大きな音が入ったりすると、リラックス状態の視聴者を驚かせてしまいます。フェードアウトや、静かなアンビエンスへの移行を使って、余韻を残す終わり方を心がけましょう。
第5章:音声編集テクニック

5-1. ノイズリダクション
ASMR動画において、ノイズは大敵です。せっかくの心地よいサウンドも、バックグラウンドにサーというホワイトノイズが入っていると、没入感が損なわれてしまいます。
ノイズリダクションの基本的な手順を解説します。まず、録音データの中から「無音部分」(話していない、音を出していない部分)を見つけます。この部分には、除去したいノイズだけが含まれています。
次に、その無音部分をノイズプロファイルとして取得します。Adobe Auditionでは「ノイズプリントをキャプチャ」、Audacityでは「ノイズプロファイルを取得」という機能を使います。ソフトウェアが、除去すべきノイズの周波数特性を学習します。
その後、ノイズリダクションを適用します。強度の設定が重要で、強すぎると音声が不自然になり、弱すぎるとノイズが残ってしまいます。プレビューしながら、最適な強度を見つけましょう。目安として、まず控えめな設定で適用し、必要に応じて段階的に強くしていくアプローチがおすすめです。
注意点として、ノイズリダクションは万能ではありません。過度な処理は「アーティファクト」と呼ばれる不自然な音の歪みを生み出します。最も重要なのは、録音段階でできるだけノイズを抑えることです。後処理はあくまで補助的なものと考えましょう。
5-2. イコライジング(EQ)
イコライジング(EQ)は、音声の周波数バランスを調整する処理です。特定の周波数帯域をブースト(強調)したりカット(抑制)したりすることで、音の印象を大きく変えることができます。
ASMRサウンドに適したEQ設定のポイントを解説します。低域(100Hz以下)については、不要な低音ノイズ(空調の唸り、振動など)をカットするため、ハイパスフィルター(低域をカットするフィルター)を80〜100Hz程度に設定します。ただし、バイノーラル録音の場合は、低音も立体感に寄与するため、慎重に調整しましょう。
中低域(200〜500Hz)は、声の「温かみ」や「厚み」に関わる帯域です。ウィスパリングが薄っぺらく聞こえる場合は、この帯域を少しブーストすることで改善できます。逆に、こもって聞こえる場合はカットします。
中高域(2kHz〜5kHz)は、「明瞭さ」「存在感」に関わる帯域です。ASMR特有の「サクッ」「カリッ」といった音は、この帯域に多く含まれています。適度にブーストすることで、音の輪郭がはっきりします。
高域(8kHz以上)は、「空気感」「きらめき」に関わる帯域です。ウィスパリングの「息」の成分や、紙を触る音の繊細さはこの帯域に含まれます。ブーストしすぎるとシャリシャリした不快な音になるため、控えめに調整しましょう。
EQは「引き算」が基本です。問題のある帯域を「カット」することで改善するのが、音質を損なわないコツです。むやみにブーストすると、ノイズも一緒に持ち上がってしまいます。
5-3. コンプレッションとリミッティング
コンプレッサーは、音量のダイナミクス(大きい音と小さい音の差)を整える処理です。ASMRでは、大きな音と小さな音の差が激しいことが多いため、適度なコンプレッションが有効です。
ただし、ASMR編集においては、コンプレッションは控えめに使用することをお勧めします。音の「自然な強弱」「息づかい」もASMRの魅力の一部だからです。過度なコンプレッションは、音を平坦にしてしまい、ASMRならではの繊細な表現が失われてしまいます。
コンプレッサーの設定としては、レシオ(圧縮比)は2:1〜3:1程度の軽めに設定します。スレッショルド(圧縮が始まる音量)は、ピーク音だけを抑える程度に設定します。アタックタイムは遅め(20〜50ms)に設定し、音の立ち上がりを潰さないようにします。リリースタイムは音源に合わせて調整しますが、自然に聞こえる範囲で設定します。
リミッターは、音量が一定レベルを超えないように制限する処理です。書き出し前の最終段階で、0dBを超えるピーク(クリッピング)を防ぐために使用します。
5-4. 空間系エフェクト
リバーブ(残響)やディレイ(反響)といった空間系エフェクトは、ASMR編集では慎重に使用する必要があります。
基本的に、ASMRでは「ドライ(エフェクトなし)」な音が好まれます。リバーブをかけると、音が遠くなり、ASMRの「近接感」「親密感」が失われてしまうからです。特にウィスパリングは、リバーブなしの方が耳元で囁かれているような感覚を与えられます。
ただし、特定のシチュエーション演出(例:広い空間にいるようなロールプレイ)や、アンビエントな雰囲気を出したい場合は、ごく軽いリバーブを使用することもあります。この場合も、ルームリバーブのような短い残響を、ウェット(エフェクト成分)を控えめに設定して使用しましょう。
5-5. ステレオイメージの調整
ステレオ録音やバイノーラル録音をした場合、ステレオイメージ(音の左右の広がり)を調整することで、より没入感のあるサウンドを作れます。
パンニング(定位)は、音を左右に配置する処理です。例えば、商品を左手で持っている映像なら、その音を左寄りに配置することで、映像と音の一体感が生まれます。ただし、ヘッドホンで聴くことを前提に、極端な左右の振り分けは避けましょう。
ステレオワイドナーは、ステレオ感を広げるエフェクトです。適度に使用することで、より包み込まれるような音場を作れます。しかし、やりすぎると位相の問題が発生し、モノラルで再生した時に音が薄くなることがあります。
バイノーラル録音の場合は、基本的にそのままの状態が最も立体的です。むやみにステレオイメージをいじると、バイノーラル特有の「3D感」が損なわれてしまうため、注意が必要です。
第6章:映像と音の融合テクニック
6-1. 音に合わせた映像カット
ASMR動画では、「音が主役、映像が脇役」という意識で編集することが大切です。映像のカットタイミングは、音に合わせて決定しましょう。
リズムカットは、ASMRサウンドのリズムに合わせて映像を切り替えるテクニックです。例えば、タッピング音に合わせてカットを入れることで、音と映像が一体となったリズミカルな映像が生まれます。ただし、カットが多すぎると落ち着きがなくなるため、バランスを意識しましょう。
アンティシペーションカットは、音が鳴る「少し前」に映像を切り替えるテクニックです。視聴者に「次に何の音がするか」を予感させることで、期待感と満足感を高めます。例えば、ハサミで紙を切るシーンなら、ハサミが紙に触れる直前にクローズアップに切り替えることで、「切る音」への期待を高められます。
スローモーションも効果的なテクニックです。特に印象的なASMRサウンドのシーンでは、映像をスローモーションにすることで、音を「じっくり味わう」時間を作れます。例えば、パッケージを開ける瞬間をスローにして、フィルムが剥がれる音を強調するといった使い方ができます。
6-2. クローズアップとディテール映像
ASMRでは、商品のディテールを大きく映すクローズアップが基本となります。視聴者は、音を聴きながら、その音を出している「対象」を見たいと感じるからです。
音の発生源を映すことが最も重要です。タッピングの音を聴かせるなら、指先と商品の接点を。ページをめくる音を聴かせるなら、紙の端を。音が出ている「まさにその場所」を映すことで、視聴者は音と映像を自然に結びつけられます。
マクロ撮影(超クローズアップ)は、ASMRならではの映像表現です。通常の商品紹介では見せないような、製品の細部(表面のテクスチャー、刻印、素材の質感など)を大きく映すことで、視覚的な「触覚」を刺激します。
ラックフォーカス(フォーカス送り)は、ピントを前後に移動させるテクニックです。商品の手前から奥へ、あるいは奥から手前へとフォーカスを移動させることで、視聴者の視線を誘導し、映像に動きを与えます。
6-3. 色調と雰囲気の統一
映像のカラーグレーディングも、ASMR動画の印象を左右する重要な要素です。
暖色系のグレーディングは、リラックス感と親密感を演出します。色温度を少し暖かめ(オレンジ寄り)に調整し、彩度は控えめにすることで、落ち着いた雰囲気になります。多くのASMR動画で採用されているスタイルです。
コントラストは控えめにします。強いコントラストは映像を「シャープ」「エッジー」に見せますが、ASMRの穏やかな雰囲気には合いません。シャドウを持ち上げ、ハイライトを抑えることで、柔らかい印象になります。
一貫性を保つことも大切です。同じ動画内でシーンごとに色調が変わると、視聴者の集中が途切れてしまいます。LUT(ルックアップテーブル)を使用するか、カラーグレーディングのプリセットを作成して、全編を通して統一感のある色調を維持しましょう。
6-4. テロップとグラフィック
ASMR動画におけるテロップやグラフィックの使い方には、独特の配慮が必要です。
控えめなデザインを心がけましょう。派手なテロップアニメーションや、画面を覆うような大きな文字は、ASMRのリラックスした雰囲気を壊してしまいます。フォントはシンプルなサンセリフ体を選び、サイズは小さめに、色は白や淡い色を基調とするのがおすすめです。
表示タイミングも重要です。テロップを出す際に「ポン」と効果音を入れるのは、通常の動画では定番ですが、ASMRでは避けましょう。テロップはフェードイン・フェードアウトで静かに表示し、視聴者の「音体験」を邪魔しないようにします。
最小限の情報に絞ることも意識しましょう。商品名、価格、購入リンクなど、必要最低限の情報だけをテロップで表示します。詳細な説明は概要欄に記載し、動画自体はASMR体験に集中できる構成にしましょう。
第7章:商品カテゴリ別・実践テクニック
7-1. 化粧品・スキンケア商品のASMR
化粧品やスキンケア商品は、ASMRと最も相性の良いカテゴリの一つです。液体やクリームの質感、パッケージの高級感、使用時の心地よさを、音で表現することができます。
パッケージの開封シーンでは、箱を開ける音、フィルムを剥がす音、蓋を開ける音など、それぞれを丁寧に収録します。高級化粧品ほど、パッケージにこだわりがあるため、その「開ける喜び」を音で伝えましょう。
テクスチャーの表現では、クリームを指に取る音、化粧水をパッティングする音、美容液を肌に塗り広げる音などを収録します。手のひらや指先を少し湿らせておくと、より「みずみずしい」音になります。スキンケアの「気持ちよさ」を音で伝えることで、視聴者は自分が使っているかのような疑似体験ができます。
ポンプやスプレーの音も重要なトリガーです。ポンプを押す「シュッ」という音、スプレーの「シュー」という音は、多くの人に心地よさを与えます。複数回繰り返すことで、リズミカルなASMRサウンドを作れます。
7-2. 食品・飲料のASMR
食品のASMRは「イーティングASMR」や「モッパン(韓国語で「食べる放送」の意)」として、独自の人気を確立しています。商品紹介においても、その手法を取り入れることで、食欲を刺激する動画が作れます。
咀嚼音の収録では、マイクを口元に近づけ、通常より少し大げさに音を立てて食べます。サクサク、カリカリ、パリパリといった食感音は、食品の美味しさを直接的に伝えます。ただし、咀嚼音が苦手な視聴者もいるため、ターゲット層を考慮しましょう。
飲み物の場合は、グラスに注ぐ音、炭酸の泡がはじける音、氷がグラスに当たる音、飲み込む音などがトリガーになります。特に炭酸飲料は、視覚的にも聴覚的にも「爽快感」を伝えやすい商品です。
パッケージの音も見逃せません。お菓子の袋を開ける音、缶のプルタブを開ける音、瓶の蓋を開ける音——これらは「これから美味しいものを食べる」という期待感を高めます。
7-3. 文房具・雑貨のASMR
文房具や雑貨は、素材の多様性からASMRトリガーの宝庫です。紙、木、金属、革、布——それぞれが異なる音を奏でます。
ペンと紙の音は、古典的かつ人気の高いASMRトリガーです。ボールペン、万年筆、鉛筆、筆ペンなど、筆記具によって音が異なります。また、使用する紙の質(上質紙、クラフト紙、和紙など)によっても、書き心地の音は変わります。実際に何かを書いている映像と音を組み合わせることで、「書く喜び」を表現できます。
ノートや手帳の場合は、ページをめくる音が重要です。紙質によって「サラサラ」「パサパサ」「しっとり」など、異なる音がします。一枚一枚丁寧にめくり、その音を聴かせましょう。
革製品や布製品は、タッピングやスクラッチングで質感を表現します。革のしっとりとした重厚感、布の柔らかい温かみを、音を通じて伝えることができます。
7-4. 電子機器・ガジェットのASMR
スマートフォン、キーボード、イヤホン、ゲーム機——電子機器のASMRは、デジタルネイティブ世代を中心に人気があります。
アンボクシング(開封)シーンは、電子機器ASMRのハイライトです。ダンボールを開ける音、緩衝材を取り出す音、フィルムを剥がす音、製品を箱から取り出す音——「新品を開ける喜び」を音で最大限に表現しましょう。
タイピング音は、キーボードの種類によって大きく異なります。メカニカルキーボードの「カチャカチャ」「コトコト」という打鍵音は、ASMRコミュニティで非常に人気があります。キースイッチの種類(赤軸、青軸、茶軸など)によっても音が変わるため、それぞれの特徴を活かした紹介ができます。
ボタンやスイッチの操作音も、満足感を与えるトリガーです。電源ボタン、音量ボタン、トグルスイッチなど、「押す」「切り替える」動作の音を丁寧に収録しましょう。
第8章:プラットフォーム別の最適化
8-1. YouTube向けASMR動画
YouTubeは、ASMR動画の主戦場です。長尺コンテンツが許容され、ヘッドホン視聴が前提となるため、本格的なASMR体験を提供できます。
動画の長さは、15〜60分程度が一般的です。リラクゼーション目的の視聴者は、長時間の動画を好む傾向にあります。商品紹介を軸にしつつ、同じ商品を様々なアングル、様々なトリガーで繰り返し紹介することで、十分な尺を確保できます。
チャプター機能を活用しましょう。動画の進行に合わせてチャプターを設定することで、視聴者は好みのシーンにジャンプできます。「00:00 イントロ」「02:30 パッケージ開封」「08:00 タッピング」のように、トリガーの種類でチャプターを分けるのも効果的です。
サムネイルは、ASMRらしい「静かな」デザインを心がけましょう。派手な色使いや大きなテキストは、ASMRの雰囲気と合いません。商品と演者(手元だけの場合も)をシンプルに配置し、落ち着いた色調で仕上げます。タイトルには「ASMR」というワードを含め、検索性を高めましょう。
8-2. TikTok向けASMR動画
TikTokでは、短尺でインパクトのあるASMRが求められます。60秒以内(できれば30秒以内)で、商品の魅力とASMRサウンドを凝縮して伝える必要があります。
最初の1〜2秒で視聴者を引きつけることが重要です。最も印象的なASMRサウンドを冒頭に持ってくる「フロントローディング」の構成が効果的です。例えば、パッケージを開ける「バリバリ」という音から始め、視聴者を一瞬で動画に引き込みましょう。
縦型フォーマット(9:16)での撮影が必須です。スマートフォンでの視聴を前提に、商品と音の発生源が画面の中央に来るようにフレーミングします。
TikTokはスピーカー視聴が多いため、イヤホン・ヘッドホン視聴を促すテロップ(「ヘッドホン推奨」「イヤホンで聴いてね」など)を入れると効果的です。
トレンドのハッシュタグや音源を活用しましょう。「#ASMR」「#音フェチ」「#satisfying」などの定番タグに加え、その時々のトレンドタグを組み合わせることで、リーチを拡大できます。
8-3. Instagram向けASMR動画
Instagramでは、リール(Reels)とフィード投稿で、それぞれ異なるアプローチが有効です。
リールは、TikTokと同様の短尺フォーマットです。60秒以内で、視覚的にも美しいASMR動画を作りましょう。Instagramのユーザーは「映え」を重視する傾向があるため、商品のビジュアルの美しさとASMRサウンドを両立させることが重要です。
フィード投稿(通常の投稿)では、最大60秒の動画をアップロードできます。こちらは、商品紹介のダイジェスト版として活用しましょう。本編(YouTube)への誘導リンクをプロフィールに設置し、「フルバージョンはプロフィールのリンクから」と案内します。
Instagramストーリーズでは、制作の舞台裏や、本編では使わなかったNGシーンなどを公開することで、フォロワーとのエンゲージメントを高められます。
8-4. 書き出し設定の最適化
各プラットフォームに適した書き出し設定を紹介します。
YouTubeでは、解像度は4K(3840×2160)または1080p(1920×1080)を推奨します。フレームレートは24fpsまたは30fpsで、映画的な雰囲気を出すなら24fps、動きの滑らかさを重視するなら30fpsを選びます。映像ビットレートは4Kなら40〜60Mbps、1080pなら16〜24Mbpsが目安です。音声はAAC、256kbps以上を推奨します。
TikTokとInstagramリールでは、解像度は1080×1920(縦型)、フレームレートは30fps、映像ビットレートは10〜15Mbps程度で十分です。ファイルサイズの制限があるため、画質とサイズのバランスを取りましょう。
第9章:よくある失敗と解決策
9-1. 音が小さい・聞こえにくい
ASMRでありがちな失敗が「音が小さすぎて聞こえない」というものです。
原因として最も多いのは、マイクと音源の距離が遠すぎることです。ASMRでは、通常の録音よりもマイクを音源に近づける必要があります。10〜30cm程度の距離を目安にしましょう。
録音レベルの設定も確認しましょう。オーディオインターフェースのゲイン(入力レベル)が低すぎると、音が小さく録音されてしまいます。ピークメーターが緑〜黄色の範囲(-12dB〜-6dB程度)に収まるように調整します。
編集時のノーマライズ(音量の正規化)も有効です。ただし、ノーマライズはノイズも一緒に持ち上げてしまうため、録音段階で適切なレベルを確保することが最も重要です。
9-2. ノイズが多い
ホワイトノイズ、環境音、機材由来のノイズなど、不要な音が入ってしまう問題です。
環境ノイズの対策として、まず録音環境を見直しましょう。エアコン、冷蔵庫、PCのファンなど、普段は気にならない音も、高感度マイクはすべて拾います。録音中はこれらの電源を切るか、できるだけ静かな時間帯に録音しましょう。
機材由来のノイズ(「サー」というヒスノイズ)は、安価なオーディオインターフェースやマイクで発生しやすいです。ゲインを上げすぎるとノイズも増幅されるため、適切なゲイン設定を心がけましょう。根本的な解決には、ノイズの少ない高品質な機材への投資が有効です。
編集時のノイズリダクションは、あくまで補助的な手段と考えてください。過度なノイズリダクションは、音声を不自然にしてしまいます。
9-3. 音が反響してこもる
部屋の残響(リバーブ)により、音がこもったり、風呂場のようなエコーがかかったりする問題です。
根本的な解決策は、部屋の吸音対策です。厚手のカーテン、カーペット、ソファ、本棚など、音を吸収するものを部屋に配置しましょう。壁に吸音パネルを貼ることも効果的です。
手軽な対策として、クローゼットの中や、布で囲った空間で録音する方法があります。狭い空間で柔らかい素材に囲まれることで、反響を大幅に抑えられます。
リフレクションフィルター(マイク背面に設置する吸音パネル)も有効です。完全な防音・吸音にはなりませんが、マイク周辺の反響を軽減できます。
9-4. 音と映像がずれる
映像の動きと音のタイミングが合っていないと、視聴者に違和感を与えてしまいます。
原因として、カメラ内蔵マイクと外部マイクを併用している場合、両者の音声波形を見比べて同期させる必要があります。編集ソフトの自動同期機能を使うか、手動で波形のピーク(最も音が大きい部分)を合わせましょう。
アフレコ(後から音を録音する)の場合は、同期がより難しくなります。映像を見ながら、動作のタイミングに合わせて音を出す練習が必要です。また、編集時に細かくタイミングを調整する作業も発生します。
予防策として、撮影時に「同期用の音」(手を叩く、物を叩くなど)を入れておくと、後から合わせやすくなります。
9-5. ASMR感が出ない
技術的には問題ないのに、なぜかASMR特有の「ゾクゾク感」「心地よさ」が感じられないという悩みです。
多くの場合、「詰め込みすぎ」が原因です。情報を伝えようとするあまり、ナレーションが多すぎたり、カットが忙しすぎたりすると、ASMRの「静けさ」「ゆったり感」が失われます。「間」を恐れず、音を「味わう」時間を十分に設けましょう。
また、音の「丁寧さ」も重要です。急いで雑に音を出すのではなく、一つ一つの動作をゆっくり、丁寧に行うことで、ASMR特有の心地よさが生まれます。
人気のASMR動画を研究し、「何がASMR的なのか」を分析することも有効です。トリガーの種類、テンポ、映像の見せ方など、参考にできる要素は多いはずです。
第10章:まとめと実践へのステップ
10-1. 本記事のポイント整理
長文をお読みいただき、ありがとうございました。最後に、本記事の重要ポイントを整理します。
ASMRの基礎として、ASMRとは特定の音や視覚刺激による心地よい感覚反応であること、主要なトリガーにはウィスパリング、タッピング、スクラッチング、クリンクリング、イーティングサウンド、リキッドサウンドがあることを解説しました。
機材と環境については、コンデンサーマイクが基本で、バイノーラルマイクでより立体的な録音が可能であること、静かな環境と吸音対策が音質を左右すること、4K撮影と柔らかい照明が映像品質を高めることを説明しました。
録音テクニックでは、音源とマイクの距離は10〜30cmが目安であること、商品カテゴリごとに効果的なトリガーが異なること、ウィスパリングは「息だけで話す」テクニックであることを紹介しました。
編集テクニックでは、ノイズリダクションは控えめにして録音段階でノイズを抑えることが重要であること、EQは「引き算」が基本であること、コンプレッションは軽めに、音の自然な強弱を残すこと、リバーブは基本的に不要であることを解説しました。
映像と音の融合では、音に合わせて映像カットを決めること、クローズアップで音の発生源を映すこと、暖色系で柔らかい色調が適していること、テロップは控えめにすることを説明しました。
プラットフォーム対応では、YouTubeは長尺で本格的なASMR体験を提供すること、TikTokとInstagramは短尺でインパクト重視であること、縦型フォーマットとトレンド対応が重要であることを紹介しました。
10-2. 明日から始める3ステップ
知識を得ただけでは何も変わりません。実際に行動を起こすことが大切です。明日から始められる3つのステップを提案します。
ステップ1として、まず1本のASMR動画を完成させましょう。最初から完璧を目指す必要はありません。手持ちの機材(スマートフォンでも可)で、身近な商品のASMR動画を撮影してみてください。編集し、アップロードするまでの一連の流れを体験することが、最初の一歩です。
ステップ2として、人気のASMR動画を10本以上視聴し、分析しましょう。「何がASMR的なのか」「自分が心地よいと感じるポイントはどこか」「どんな編集がされているか」を意識しながら視聴することで、ASMR動画への理解が深まります。
ステップ3として、録音環境を少しずつ改善していきましょう。高価な機材を一度に揃える必要はありません。まずはポップフィルター、次にリフレクションフィルター、その次にマイク——というように、段階的に投資していくことで、費用を抑えながら品質を向上させられます。
10-3. ASMR商品紹介の未来
ASMR動画市場は、今後も成長を続けると予想されています。特に、EC(電子商取引)の拡大に伴い、「実際に商品を手に取れない」オンラインショッピングの課題を、ASMRが補完する可能性は大きいと考えられます。
「音」は、視覚だけでは伝えきれない商品の魅力——質感、心地よさ、使用感——を伝える強力なツールです。ASMR編集のスキルを身につけることは、映像クリエイターとしての差別化につながるだけでなく、新たなビジネスチャンスを切り開く武器にもなります。
「視覚だけでなく、耳で売る」——この新しいアプローチが、あなたの動画制作に新たな可能性をもたらすことを願っています。
10-4. おわりに
ASMRは、単なる「音フェチ」コンテンツではありません。人間の感覚に直接訴えかけ、心地よさとともに商品の魅力を伝える、高度なコミュニケーション手法です。
パッケージを開ける「ワクワク感」。新しい商品に触れる「喜び」。美味しいものを口に入れる「幸福感」。これらの感覚を、音を通じて視聴者と共有できるのが、ASMR商品紹介の醍醐味です。
この記事で紹介したテクニックを参考に、あなただけのASMR動画を作り上げてください。最初は上手くいかないこともあるかもしれません。しかし、一本一本の動画を重ねるごとに、確実にスキルは向上していきます。
「耳で売る」時代は、すでに始まっています。この波に乗り、新しい表現の世界を切り開いていきましょう。あなたのASMR動画が、多くの視聴者に心地よさと商品の魅力を届ける日を楽しみにしています。