動画編集/撮影

【リクルート】:入社後のミスマッチを減らす「ドキュメンタリー風」編集のコツ

導入:なぜ今、採用に「綺麗事」はいらないのか

現在、日本の採用市場は空前の「売り手市場」にあります。どの企業も優秀な人材を確保しようと、魅力的なオフィス、充実した福利厚生、そして輝かしいキャリアパスを前面に押し出した採用広報を行っています。

しかし、その裏側で深刻化しているのが**「入社後のミスマッチ」**です。

新卒3年以内の離職率が3割を超えると言われて久しいですが、その理由の多くは「思っていたのと違った」という理想と現実のギャップにあります。企業が自分たちを「よく見せよう」とすればするほど、求職者の期待値は不自然に高まり、入社後の小さな段差が致命的な不信感へと繋がってしまいます。

特に、リクルートのような「個の成長」や「圧倒的な当事者意識」を求める文化を持つ企業にとって、このギャップは組織の機動力を削ぐ大きなリスクとなります。そこで重要になるのが、「ドキュメンタリー風」の編集技法です。

これは単なる動画制作の流行ではありません。求職者に対して「この会社は自分に合うか」を冷徹に判断してもらうための、**「高度に戦略的な情報開示」**なのです。


第1章:ドキュメンタリー風編集とは何か?(定義と心理的効果)

「PR」と「ドキュメンタリー」の決定的な違い

多くの企業が作成する「社員インタビュー動画」は、厳密には「PR動画(宣伝)」です。

  • PR動画: 結論(この会社は素晴らしい)が決まっており、それを補強する素材を集める。
  • ドキュメンタリー: 問い(この会社で働くとはどういうことか)があり、起きている事象をそのまま記録する。

ドキュメンタリー風編集において最も重要なのは、**「結論をコントロールしようとしないこと」**です。

例えば、プロジェクトの成功シーンを撮るのではなく、会議で意見がぶつかり合い、重苦しい空気が流れるシーンをあえて残す。あるいは、深夜のオフィスで一人頭を抱える社員の背中を映す。こうした「不都合に見える真実」こそが、求職者が最も知りたい情報であり、情報の信頼性を担保します。

心理学から見る「不完全さ」の信頼性

なぜ、不完全な姿を見せることが採用に有利に働くのでしょうか。これには**「プラットフォール効果(しくじり効果)」**という心理学的な背景があります。

プラットフォール効果とは 非常に優秀で完璧に見える人物よりも、適度に失敗したり、弱みを見せたりする人物の方が、周囲からの好感度や信頼度が高まる現象。

採用においても同様です。メリットばかりを強調する企業は、求職者の脳内で「何か隠しているのではないか?」という防衛本能を働かせます。一方で、課題や泥臭い現場を隠さず見せる企業に対しては、「正直な会社だ」「ここなら信頼できる」というポジティブな評価が生まれます。

この「信頼」こそが、CPA(顧客獲得単価、ここでは応募獲得単価)を下げ、質の高い母集団形成を実現する鍵となります。


第2章:【企画編】「誰を、何を」撮るべきか。素材選びの極意

ドキュメンタリー風コンテンツを制作する際、最大の失敗は「社内のエースをキャスティングしてしまうこと」です。

スター社員ではなく「悩んでいる社員」を追う

もちろん、エース社員の活躍は華やかです。しかし、求職者が自己投影するのは「完璧なヒーロー」ではありません。「自分と同じように悩み、壁にぶつかっている等身大の誰か」です。

  • ターゲットにすべき対象:
    1. 中途入社3ヶ月目で、前職との文化の違いに苦労している社員
    2. 若手リーダーとして抜擢されたが、チームビルディングに失敗し続けている社員
    3. 育児と仕事の両立に葛藤し、毎日をギリギリで回している社員

彼らが「どうやって壁を乗り越えたか」だけでなく、**「今まさに、どう壁にぶつかっているか」**という現在進行形のドラマを素材に選ぶことが、視聴者の心を掴むポイントです。

「成功」ではなく「葛藤のプロセス」にカメラを向ける

採用コンテンツの定番である「プロジェクト成功談」は、結果だけを聞けばどれも同じように聞こえます。ドキュメンタリー風編集では、そのプロセスにある「ノイズ」を拾い上げます。

  • 企画が何度も差し戻されるシーン
  • クライアントから厳しい指摘を受ける電話の表情
  • 同僚との議論で、納得がいかないまま黙り込む瞬間

これらの「ノイズ」こそが、入社後のリアルを想起させます。「リクルートはここまで徹底的にやるのか」「この厳しさに自分は耐えられるか」という**セルフスクリーニング(自己選別)**を促すのです。

第3章:【撮影編】作為を排除し、本音を引き出す演出術

企画が固まったら、次はいかにして「作られた言葉」ではない「生の声」をカメラに収めるかというフェーズに入ります。ドキュメンタリー風編集における撮影は、映像美を追求することではなく、**「被写体との心理的距離をゼロにするプロセス」**です。

1. 「台本」を捨て、「問い」を立てる

一般的な採用動画には「Q:入社の決め手は?」「A:成長できる環境だと思ったからです」といった台本が存在します。しかし、これでは視聴者の心には響きません。

ドキュメンタリー風撮影では、具体的な質問ではなく、**抽象的で感情を揺さぶる「問い」**を投げかけます。

  • NG: 「仕事のやりがいは何ですか?」
  • OK: 「この1週間で、一番『逃げ出したい』と思った瞬間はいつですか?」
  • OK: 「昨夜、寝る前に仕事のことを考えて不安になりませんでしたか?」

人は「正解」を答えようとすると建前を話しますが、「感情の機微」を問われると、自分の内面と向き合わざるを得なくなります。その際に見せる、数秒の沈黙や視線の泳ぎこそが、視聴者が求めている「リアル」です。

2. カメラの存在を消す「環境構築」

巨大な機材、大勢のスタッフ、眩しい照明。これらは被写体を「演者」にしてしまいます。本音を引き出すためには、徹底的に「日常」に擬態する必要があります。

  • 最小限の機材: ジンバル付きの小型カメラや、iPhoneでも十分です。「今から撮りますよ」という威圧感を排除します。
  • 長回しの徹底: インタビューは最短でも1時間は回します。最初の20分で出る言葉は、ほとんどが「よそ行きの言葉」です。被写体がカメラに飽き、こちらの存在を背景として認識し始めた頃に、ようやく本音が漏れ出します。
  • 「相槌」を撮る: インタビュアーが話を聞いている時の「表情」や、被写体がペンを回す手元などの「インサートカット」を多めに撮っておきます。これが編集段階で、心理描写に深みを与えます。

3. 「現場の音」にこだわる

ドキュメンタリーにおいて、音は映像以上に重要です。

オフィスの電話の音、キーボードを叩く音、誰かの話し声。これらをクリアに拾うことで、視聴者は「その場にいる」ような没入感を得ます。あえてBGMを入れない「無音の緊張感」を作るためにも、環境音(アンビエンス)の収録には細心の注意を払います。


第4章:【編集編】「見せたくないシーン」こそカットしない勇気

編集の目的は、素材を綺麗に整えることではありません。**「事実の純度を高めること」**にあります。リクルート的な「当事者意識」を求める文化を伝えるには、あえて泥臭い部分を残す編集が不可欠です。

1. 「沈黙」と「言い淀み」の活用

多くの編集者は、言葉の詰まり(「えーっと」「あのー」)や、質問に対する数秒の沈黙をカットしてしまいます。しかし、ドキュメンタリー風編集ではこれを**「思考のプロセス」**として積極的に活用します。

  • 沈黙の意味: 難しい質問に対し、真剣に言葉を選んでいる時間は、その人の誠実さを物語ります。
  • 言い直し: 一度言ったことを「いや、今の表現は違いますね」と訂正するシーンは、その人の価値観の輪郭を浮き彫りにします。

これらを残すことで、動画全体に「この映像に嘘はない」という強力な説得力が宿ります。

2. BGMとテロップの「引き算」理論

バラエティ番組のような過度な装飾は、ドキュメンタリーの信頼性を一瞬で破壊します。

要素編集の指針
BGM感情を誘導しないものを選ぶ。迷ったら「無音」を選ぶ。盛り上がる場面で突然音を消す手法も有効。
テロップ要約しない。話した言葉をそのまま出すか、あえて重要な一言以外は出さない。フォントは明朝体や細身のゴシックで、主張を抑える。
色調(グレーディング)彩度を上げすぎず、自然な色味、あるいは少しだけ落ち着いたトーンにする。キラキラした印象を与えない。

3. 「対比」によるストーリーテリング

一人の成功だけでなく、複数の視点を組み合わせることで、組織の立体感を出します。

  • 理想と現実の対比: 社員が語る「理想」の直後に、会議でその理想が打ち砕かれるシーンを繋げる。
  • 先輩と後輩の対比: 同じ事象に対して、経験の差による捉え方の違いを並べる。

このような構成にすることで、視聴者(求職者)は「自分ならどう振る舞うか?」を自問自答し始めます。これこそが、入社後のミスマッチを劇的に減らす**「疑似体験」**の効果です。

第5章:ネガティブ情報の「正しい」出し方

多くの企業がドキュメンタリー風の演出を試みながら、最終的に失敗する最大の要因は**「最後に綺麗にまとめようとしてしまうこと」**にあります。本章では、入社後のミスマッチを最小化するための、情報の「毒」と「薬」の調合方法について解説します。

1. 「きつい」を「やりがい」に無理に変換しない

採用コンテンツでよく見られる「課題はあるが、仲間の支えがあるから乗り越えられる」というテンプレートな着地は、求職者にとって既視感(デジャヴ)でしかありません。

  • 本質的な開示: 「深夜まで議論が白熱し、結局結論が出ないまま、疲れ果ててオフィスを去る後ろ姿」をそのまま見せる。
  • 狙い: 視聴者に「この不毛とも思えるプロセスを、自分は許容できるか?」と問う。

「きつい」という事実を「やりがい」という言葉でコーティングした瞬間に、それはドキュメンタリーではなくPRに成り下がります。事実は事実として、解釈を視聴者に委ねる勇気が必要です。

2. 「不都合な真実」の種類を分類する

全てのネガティブ情報を出せばいいわけではありません。出すべきは**「その組織で働く上で避けて通れない構造的な苦しみ」**です。

出すべきネガティブ情報出すべきではない情報
構造的摩擦: 意思決定の速さゆえの朝令暮改、個の責任の重さ個人的不満: 特定の個人への誹謗中傷、単なる設備の不備
成長の痛み: 自分の無力さを突きつけられるフィードバック衛生的要因の欠如: 法令違反、ハラスメント(これは改善すべき点であり、コンテンツにすべきではない)
トレードオフ: 何かを得るために捨てなければならない時間やゆとり自浄作用のない愚痴: 解決策もなく、ただ停滞している空気

3. 「劇薬」としてのセルフスクリーニング

ドキュメンタリー風編集は、応募数を増やすためのものではなく、**「合わない人を丁寧に断る」**ためのフィルターです。

リクルートの文化で言えば、「お前はどうしたいの?」と常に問われ続けるプレッシャー。これを「最高の環境」と感じる人と、「精神的な苦痛」と感じる人に分かれます。動画を通じて後者の応募を未然に防ぐことが、結果として採用コストの劇的な削減に繋がります。


第6章:効果測定とCPA/定着率への影響

「ドキュメンタリー風動画は、かっこいいけれど採用に繋がるのか?」という経営層からの問いに対し、データで答えるための指標(KPI)の考え方を整理します。

1. CPA(応募単価)の「質」を再定義する

一般的に、リアルすぎる(ネガティブな)動画を出すと、一時的にCVR(応募率)が下がり、CPAが上昇することがあります。しかし、ここでのCPAは単なる「応募1件あたりのコスト」ではなく、**「入社1年後も活躍している人材1人あたりの獲得コスト」**で評価すべきです。

  • 短期指標: 応募数、CPA、動画視聴完了率
  • 長期指標: 一次面接通過率、内定承諾率、入社1年後離職率

ドキュメンタリー風編集を導入すると、応募数は減っても**「一次面接の通過率」が飛躍的に高まる**傾向にあります。なぜなら、動画を最後まで見て応募してきた人は、すでに組織の負の側面を理解し、それを「自分の課題」として受け入れている「覚悟のある志願者」だからです。

2. インナーブランディングへの波及効果

この手法の隠れたメリットは、採用だけでなく現職社員への影響にあります。

自分たちの泥臭い日常が「価値あるドラマ」として編集され、世に出ることで、出演した社員やその周囲の社員に「自分たちの仕事には意味がある」という再確認を促します。

  • 副次的効果: * 既存社員のリファラル(紹介)採用意欲の向上
    • 「自分たちのリアル」を肯定されることによるエンゲージメント向上

3. 定着率とLTV(ライフタイムバリュー)

ミスマッチによる早期離職は、1人あたり数百万円から一千万円以上の損失(採用費+教育費+機会損失)になると言われています。

ドキュメンタリー風編集によって離職率を数%下げることは、広告運用のCPAを数百円下げることよりも、遥かに大きな経済的インパクトを事業にもたらします。


第7章:【実践ステップ】今日から始める「リアル」の編集

(※ここからは、具体的なアクションプランを1.5万文字から3万文字のボリュームに耐えうる深さで詳説していきますが、まずは要点をまとめます)

  1. スマホ1台で「定点観測」を始める: 会議の隅にカメラを置き、誰も意識しなくなった頃の「本音の議論」を拾う。
  2. インタビューの「逆質問」を撮る: 社員がカメラマン(人事)に対して「ぶっちゃけ、この採用方針でいいんですか?」と問い直すシーンこそ、最高の素材になる。
  3. テロップの「要約」をやめる: 「成長できました」とテロップを出すのではなく、その社員が言葉に詰まって涙を堪える「5秒間の無言」に、視聴者の感情を委ねる。

第8章:経営層をどう説得するか―「ブランド毀損」の恐怖を「投資」に変える

ドキュメンタリー風編集、特に「ネガティブ情報の開示」を提案すると、多くの広報や経営層は「会社のブランドに傷がつく」「応募が来なくなる」と難色を示します。彼らを納得させるには、情緒的な議論ではなく、**「徹底した実利(経済的合理性)」**を提示する必要があります。

1. 「隠してもバレる」時代の透明性コスト

現代はSNSや口コミサイト(OpenWork等)により、企業の裏側はすでに可視化されています。

  • 戦略的ロジック: 「企業が自ら不都合な真実を語らないことは、第三者による悪意ある暴露に情報の主導権を譲り渡すことと同義である」と伝えます。
  • 解決策: 自社メディアで先に「課題」を開示し、それをどう乗り越えようとしているかの「文脈(コンテキスト)」を付与することで、ネガティブな事実を**「解決すべき健全な課題」**へと昇華させます。

2. 離職コストの可視化

ミスマッチによる早期離職がどれほどの損失か、具体的な数式で示します。

離職損失コストの計算例

1人の新卒・中途社員が1年以内に離職した場合の損失額:

$$L = (採用費) + (給与+社会保険料) + (教育担当の工数コスト) + (本来生み出すはずだった利益)$$

一般的な専門職の場合、年収の**2倍〜3倍(約1,000万円〜1,500万円以上)**の損失になると言われています。

「1.5万文字のドキュメンタリー記事や動画に100万円投資して、離職者を1人減らすだけで、投資対効果(ROI)は1,000%を超える」というロジックは、経営者にとって非常に強力です。


第9章:【業界別】ドキュメンタリー構成案と成功の鍵

リクルートのような「個の強さ」を売りにする企業以外でも、この手法は有効です。各業界特有の「隠したいリアル」をどう「惹きつけ」に変えるかの設計図を示します。

1. IT・スタートアップ業界

  • 隠したいリアル: カオスな組織状態、整っていない制度、深夜のトラブル対応。
  • ドキュメンタリーの切り口: 「完成された仕組みで働きたい人」を排除し、「仕組みを自ら作る手触り感」を求める層を狙う。
  • 構成要素: 喧嘩に近い議論シーン、リリース直前の張り詰めた空気、失敗した施策の振り返り。

2. 製造・メーカー・エッセンシャルワーカー

  • 隠したいリアル: 地味で反復的な作業、過酷な現場環境、古い慣習。
  • ドキュメンタリーの切り口: 「キラキラした仕事」への憧れを持つ層を排除し、「職人的なこだわり」や「社会のインフラを支える自負」を持つ層を狙う。
  • 構成要素: 油にまみれた手、何度もやり直す試作、熟練工の厳しい指導と、その裏にある信頼関係。

3. サービス・接客業

  • 隠したいリアル: 理不尽なクレーム、立ち仕事の疲労、休日の少なさ。
  • ドキュメンタリーの切り口: 「お客様は神様」という幻想を捨て、プロとしての「境界線」と「対等な関係性」を見せる。
  • 構成要素: バックヤードでの溜息、クレーム対応後のスタッフ同士のフォロー、閉店後の静かな店内で語られる「なぜこの仕事を続けるのか」。

第10章:法務・広報とのコンフリクトを回避する「ガードレール」

「リアルを出す」ことと「リスクを冒す」ことは違います。組織として導入するための運用ルールを策定します。

  • 情報のグレーゾーン管理:
    • 公開OK: 個人の悩み、仕事上の失敗、組織の課題、激しい議論。
    • 公開NG: 顧客の機密情報、個人情報、法令違反を想起させる描写、特定の個人を攻撃する内容。
  • 「本人承諾」の多層化:撮影前、編集後、公開直前の3段階で本人(および登場人物)の確認を取るプロセスをマニュアル化します。「後で削れる」という安心感が、撮影時の本音を引き出す土壌になります。

第11章:ドキュメンタリーから「文化」への昇華

最後に、この編集手法を単発のコンテンツで終わらせないための戦略です。

1. 「弱さの開示」を評価する文化

ドキュメンタリーに出演し、自分の失敗や悩みをさらけ出した社員を「勇敢な貢献者」として称える空気を作ります。これが心理的安全性を高め、結果として組織全体のパフォーマンスを向上させます。

2. 採用候補者を「視聴者」から「当事者」へ

動画を見た候補者が、面接の場で「あの動画のあのシーン、自分ならこう動いたと思います」と語り始める。これこそがドキュメンタリー風編集のゴールです。


結論:誠実な編集が、最強の採用ブランディングになる

リクルートが長年培ってきた「リアルを伝える」姿勢は、単なる手法ではなく、求職者に対する**「敬意」**の現れです。

「この会社は、良いところも悪いところも包み隠さず話してくれた。だから信じられる」

この信頼関係こそが、広告費(CPA)を最小化し、入社後の活躍(LTV)を最大化する、マーケティングの終着駅なのです。

第12章:自社の「毒」を「薬」に変えるための30の問い

ドキュメンタリー風編集で最も恐ろしいのは、「出すべきではないネガティブ(単なる不満)」を出してしまい、誰も幸せにならない動画になることです。このワークシートを通じて、自社の「独自の痛み」を特定してください。

カテゴリA:業務の「手触り」に関するリアル

ここでは、日々の仕事の泥臭さを浮き彫りにします。

  1. 入社初日に「え、こんなことまで自分がやるの?」と驚かれる地味な作業は何か?
  2. 華やかな成果の裏側にある、全時間の8割を占める「退屈なプロセス」は何か?
  3. マニュアルが全く通用せず、自分の頭で考え抜かないと1歩も進めない瞬間はどこか?
  4. 「効率化」が叫ばれる一方で、あえて残している「非効率で非合理なこだわり」は何か?
  5. 顧客から最も厳しく叱責されるのは、どのような状況か?
  6. 仕事の「手離れ」が悪い(いつまでも気が抜けない)ポイントはどこか?

カテゴリB:組織・文化の「暗黙知」に関するリアル

外からは見えにくい、組織固有の「重力」を可視化します。

  1. 中途入社者が、入社1ヶ月目に最も「文化の壁」を感じる瞬間はいつか?
  2. 会議で「それ、意味あるの?」と突き返される時の、独特の空気感とは?
  3. 「自由」という言葉の裏に隠された、凄まじい「自己責任」の重さをどう表現するか?
  4. 意思決定のプロセスにおいて、最も「時間がかかる」「面倒な」調整は何か?
  5. 評価制度において、どれだけ成果を出しても「ここができていないと認められない」という厳しい基準は何か?
  6. 社内で「よし」とされるコミュニケーションは、ドライか、ウェットか?(その過剰な側面は?)

カテゴリC:人間関係・マネジメントのリアル

「仲が良い」の定義を、ドキュメンタリー的に解体します。

  1. 上司と部下が、本気でぶつかり合う(議論する)時のキーワードは何か?
  2. チームメンバーが失敗したとき、周囲は「優しく励ます」のか、「冷徹に原因を問う」のか?
  3. 飲み会や雑談の中で、実は誰もが課題だと思っているが「解決が難しい」共通の悩みは何か?
  4. エース社員が、一度は「もう辞めよう」と思った絶望的なエピソードは何か?
  5. マネジメント層が、現場に対して「申し訳ないが、今はこれに耐えてくれ」と言わざるを得ないことは何か?
  6. 組織の中で「浮いてしまう人(馴染めない人)」の共通点は何か?

カテゴリD:キャリア・成長の「痛み」

「成長」という言葉のキラキラ感を排除します。

  1. 成長の代償として、一時的に「捨てなければならないもの」は何か?(時間、趣味、心の平穏など)
  2. 「自分の無力さ」を最も残酷に突きつけられるのは、どのような場面か?
  3. 昇進・昇格した瞬間に、新たにのしかかる「予期せぬ苦しみ」とは何か?
  4. この会社に5年いても、得られない(他社で通用しなくなる)スキルや経験は何か?
  5. 「ロールモデルがいない」という状況を、どうポジティブではなく「不安な事実」として伝えるか?
  6. 研修制度が「整っていない」ことで、新人が自力で這い上がらなければならない限界点はどこか?

カテゴリE:未来・ビジョンの「不確実性」

会社の不安定さを、挑戦の舞台として提示します。

  1. 3年後、この事業が「なくなっているかもしれない」というリスクの根拠は何か?
  2. 経営陣が、今夜も眠れないほど不安に思っている「競合の脅威」は何か?
  3. ビジョンと現実のギャップが最も激しく、社員が「綺麗事だ」と冷めている部分はどこか?
  4. 組織が急拡大(または縮小)することで、現場に生じている「歪み」は何か?
  5. 「まだ何者でもない」という状態が、どれほどのストレスを周囲に与えているか?
  6. 最後に、「それでも、なぜあなたはこの場所で戦い続けるのか?」

第13章:【ワーク】情報の「毒性」判定シート

30の問いで出た答えを、以下の基準で仕分けします。

判定内容編集上の扱い
A:誇るべき毒厳しさの裏に会社の哲学がある(例:徹底した顧客主義ゆえの修正地獄)メインテーマにする。 ここに共感する人を集める。
B:仕方のない毒業界構造や成長フェーズ上の課題(例:スタートアップゆえの制度不足)淡々と事実を伝える。 納得感のある説明を添える。
C:ただの毒単なる怠慢、不潔、不条理な暴力(例:パワハラ、サービス残業の常態化)即刻改善する。 コンテンツにしてはいけない(リスクになる)。

第14章:編集で「毒」を「信頼」に変換するテクニック

特定した「ネガティブ(毒)」を動画や記事に落とし込む際、リクルート流の編集では以下の**「3段階の構成」**を用います。

  1. 提示(Fact): 「会議で3時間、一歩も進まない様子」をそのまま見せる。
  2. 独白(Feeling): その直後の社員の「正直、きついっすね。何やってんだろうって思いますよ」という言葉を拾う。
  3. 接続(Context): 「でも、ここで妥協したら、結局顧客のためにならないって全員わかってるから、誰も席を立たないんです」という**「なぜその毒が必要なのか」**という文脈に繋げる。

この「Context」がないと、ただのブラック企業の告発動画になってしまいます。逆に「Context」が強すぎると、PR動画の嘘臭さが出てしまいます。**比率は 7(事実・感情):3(文脈)**が黄金比です。

最終章:30日間・採用ドキュメンタリー導入ロードマップ

「完璧な準備」は不要です。ドキュメンタリーの価値は「今、ここにあるリアル」にあります。以下のステップで、まずは小さな一歩を踏み出してください。

【Week 1】 毒の特定と「不完全な被写体」の選定

最初の1週間は、カメラを持つ前に「何を映すべきか」の解像度を高めます。

  • Day 1-3: 第12章の「30の問い」を使い、自社の「誇るべき毒(独自の厳しさ)」を3つ特定する。
  • Day 4-5: 「成功しているスター社員」ではなく、「今まさに壁にぶつかっている社員」や「泥臭い現場で汗をかいている社員」を3名リストアップする。
  • Day 7: 候補者に「かっこいい動画ではなく、あなたのリアルな葛藤を撮りたい」と趣旨を説明し、内諾を得る。

【Week 2】 「非介入型」の素材収集

演出を捨て、日常にカメラ(スマホで可)を潜り込ませます。

  • Day 8-10: ターゲットとする社員の「最も重苦しい会議」や「孤独な作業時間」に1〜2時間同行し、定点観測で撮影する。
  • Day 11-12: インタビュー実施。「やりがい」を聞く前に、第3章の「感情を揺さぶる問い」をぶつけ、数秒の沈黙や言い淀みを逃さず記録する。
  • Day 14: 周囲のメンバーにも「あの人の苦労している点」をこっそりインタビューし、多角的な視点を集める。

【Week 3】 7:3の法則による「削る」編集

情報を整理するのではなく、情報の「純度」を高める作業です。

  • Day 15-18: 撮影素材から「一番見せたくなかったシーン(失敗、沈黙、疲労)」を抜き出し、構成の核に据える。
  • Day 19-21: 第4章の「引き算理論」に従い、派手なBGMや要約テロップを全て削除する。
  • Day 23: 「事実7:文脈3」の比率になっているか確認し、単なる批判動画にならないよう、その厳しさが「なぜ必要なのか」を最後に15秒だけ差し込む。

【Week 4】 戦略的公開と「質の高い」CPA測定

動画を公開し、組織のフィルターとして機能させます。

  • Day 24-25: 経営層・法務へ最終確認。「これを見て応募を止める人がいたら、この動画は成功です」というロジックで承認を通す。
  • Day 26: 採用サイト、SNS、求人票に掲載。タイトルは「〇〇のリアル」など、煽らず誠実なものにする。
  • Day 30: 最初の反響を確認。応募数(CPA)の変動だけでなく、**「面接に現れた候補者の熱量と理解度」**の変化を面接官にヒアリングする。

総括:誠実さが最大の武器になる時代

本記事で解説してきた「ドキュメンタリー風」編集のコツは、突き詰めれば**「求職者を一人の大人として信頼し、等身大の真実を差し出すこと」**に集約されます。

綺麗にパッケージされた「理想の会社像」は、一時的にCPA(応募単価)を下げるかもしれません。しかし、その先に待っているのは、入社後のミスマッチという、会社にとっても個人にとっても不幸な結末です。

リクルートが体現してきたように、自社の「痛み」や「弱さ」を隠さず、それすらも「挑戦しがいのある課題」として提示できる企業には、必ずそれに見合った強靭な人材が集まります。

「よく見せる」採用から「正しく伝える」採用へ。

あなたの手元にあるスマホと、目の前で悩みながら働く社員の姿こそが、世界で唯一の、そして最強の採用コンテンツです。

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