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口コミ削除の法的根拠:開示請求や名誉毀損で訴える場合の注意点

悪質口コミに立ち向かう:
削除・開示請求の法的根拠と訴訟の注意点

「身に覚えのない誹謗中傷を書かれたが、Googleが削除してくれない」
「特定のクレーマーによる執拗な攻撃。法的に投稿者を特定して訴えたい」

インターネット上の誹謗中傷対策において、Googleマップは非常に特殊なプラットフォームです。Googleは独自のガイドラインを優先するため、単に「不快だ」と訴えるだけでは削除に応じません。

しかし、法律の枠組み――名誉毀損、侮辱罪、偽計業務妨害――に基づいた適切な手順を踏めば、不当な口コミを排除し、投稿者の責任を追及することは可能です。本記事では、法的措置を検討する際の要件と実務上のリスクを徹底解説します。

【本記事の構成(Part 1)】

  • 第1章:法的措置の前に。Googleガイドラインと法律の「壁」を知る
    • Googleが削除に応じるケース、応じないケース
    • 「表現の自由」と「権利侵害」の境界線
  • 第2章:削除要請の法的根拠:名誉毀損と業務妨害の定義
    • 「事実の摘示」があるか?名誉毀損が成立する要件
    • 嘘の書き込みで客足を止める「偽計業務妨害」
  • 第3章:裁判外の削除要請:プロバイダ責任制限法に基づく手続き
    • 送信防止措置依頼書の書き方と効果
    • Google日本法人と米国本社のどちらを相手にするべきか

第1章:Googleガイドラインと法律の「壁」

Googleは、世界レベルで「ユーザーの言論の自由」を保護しています。そのため、単なる「低い評価(星1)」や「個人の感想(まずかった、等)」は削除の対象になりません。

1-1. 削除できるのは「権利侵害」がある場合のみ

法律を使って削除を求めるには、その口コミが「真実ではなく」かつ「店舗の社会的評価を低下させている」ことを証明しなければなりません。Googleは中立的な立場を崩さないため、法的な証拠や裏付けがない限り、強制的な削除には極めて慎重です。

第2章:法的根拠:名誉毀損と業務妨害

訴訟や削除請求において、主に使われる法的根拠は以下の2つです。

第3章:プロバイダ責任制限法に基づく手続き

裁判をせずに削除を求める第一歩が、プロバイダ責任制限法に基づく「送信防止措置依頼」です。

3-1. 送信防止措置依頼書とは

Googleに対し、「この口コミは私の権利を侵害しているので消してください」と正式に申し出る書類です。Googleはこの依頼を受けると、投稿者に「削除していいですか?」と照会を行うか、権利侵害が明白な場合は直接削除を検討します。ただし、Googleはこれに応じる義務はなく、実際には無視されるケースも多いため、次の「仮処分」を見据えた準備が必要です。

【本記事の構成(Part 2)】

  • 第4章:投稿者を特定する「発信者情報開示請求」の新ルート
    • 改正法で新設された「非訟手続き」による期間短縮
    • IPアドレスから氏名・住所へ。二段階の開示プロセス
  • 第5章:裁判所を通じた「削除の仮処分」:強制執行の威力
    • 通常の裁判を待たずに口コミを消すスピード解決法
    • Google本社(米国)を相手にする際の手続きと翻訳の壁
  • 第6章:費用対効果の現実:弁護士費用と損害賠償金の相場
    • 「赤字」になるリスク。開示請求にかかるコストの目安
    • 慰謝料で回収できる金額の相場と、現実的な落とし所
  • 第7章:証拠保全の鉄則:法的に有効な「スクリーンショット」の撮り方
    • URL、投稿日、投稿者名、表示端末の時刻をすべて収める
    • 「動画での保存」が有効な証拠になるケース

第4章:投稿者を特定する「発信者情報開示請求」

匿名アカウントによる投稿であっても、法的手続きを踏めば「誰が書いたか」を特定できる可能性があります。2022年10月の法改正により、手続きが一本化され、従来よりも迅速になりました。

4-1. 発信者情報開示命令(新ルート)

これまでは「GoogleへのIP開示」と「プロバイダへの氏名開示」の2つの裁判が必要でしたが、「発信者情報開示命令」という一つの手続きで、IPアドレスの保存から情報の提供までを一括して裁判所に申し立てることが可能になりました。それでも特定完了までには3ヶ月〜半年程度の期間を要します。

第5章:裁判所を通じた「削除の仮処分」

Googleが任意の削除に応じない場合、裁判所に「仮処分(かししょぶん)」を申し立てます。これは「権利侵害が明白なので、裁判の結果を待たずにひとまず消しなさい」という命令をGoogleに出すものです。

第6章:費用対効果の現実:弁護士費用と賠償金

多くの経営者が直面するのが、「コストが賠償金を上回る」という現実です。

項目 費用の目安 / 相場
弁護士費用(削除・特定) 50万円 〜 100万円以上
認められる慰謝料(相場) 10万円 〜 50万円程度

※法人の場合、売上減を証明できれば営業損害も認められますが、その立証(口コミだけが原因であることの証明)は極めて困難です。法的措置は、金額の回収よりも「ブランドイメージを守る」「再発を防止する」という目的で行うべきです。

第7章:証拠保全の鉄則:法的有効なスクリーンショット

投稿者が口コミを削除してしまえば、それ以上の特定は困難になります。異変を感じたら即座に「法的証拠」を残しましょう。

7-1. 必須の撮影項目

  • フルURL: どのアドレスに掲載されているか。
  • 投稿者のリンク先: 投稿者名をクリックした先のプロフィールページ。
  • タイムスタンプ: 投稿日時と、撮影したPC・スマホのシステム時計(右下などの時刻表示)。

【本記事の構成(Part 3・完結)】

  • 第8章:訴える前の「交渉」:示談による早期解決の可能性
    • 特定後の「通知書」送付で投稿を削除させる
    • 和解金の支払いと「二度と書き込まない」誓約書の締結
  • 第9章:法的手続きに伴う「炎上リスク(ストライサンド効果)」
    • 「訴えたこと」自体がSNSで拡散される二次被害の恐怖
    • ブランドイメージを守るための広報的視点での判断
  • 第10章:【総括】法的手段は「伝家の宝刀」。抜かずに済む体制を
    • 誠実な口コミ返信が、将来の法的紛争を未然に防ぐ
  • よくある質問(Q&A)と総括

第8章:訴える前の「交渉」:示談による早期解決

すべてのケースで判決まで持ち込む必要はありません。投稿者が特定できた段階で、弁護士を通じて「通知書」を送付するだけでも、十分な効果が得られることが多いです。

8-1. 示談という選択肢

相手が非を認め、謝罪と削除に応じるのであれば、高額な裁判費用をかけて判決を取るよりも合理的です。その際、「今後一切、貴店に関わる書き込みを行わない」という条項を含めた合意書を交わすことで、再発防止の法的な拘束力を得ることができます。

第9章:法的手続きに伴う「炎上リスク」

法的措置をとる際に最も警戒すべきが、いわゆる「ストライサンド効果」です。情報を隠そうとしてかえって世間の注目を集めてしまう現象を指します。

第10章:【総括】法的手段は「伝家の宝刀」

法的手段は、店舗の権利を守るための最後の武器です。しかし、それを抜くには多大なコスト、時間、そしてリスクが伴います。

日頃からGoogleビジネスプロフィールを誠実に運用し、批判的な意見に対しても真摯に返信を行う姿勢を見せていれば、万が一悪質な口コミが投稿されても、他のユーザーはその異常性に気づいてくれます。

「法でねじ伏せる」のではなく、「圧倒的な信頼と実績で悪意を無効化する」。この王道のMEOこそが、結果として最も安上がりで、最も強いブランド防衛策となります。それでもなお、一線を越えた悪意に直面したときは、迷わず法律という盾を使いましょう。

口コミ削除と法的措置 よくある質問(Q&A)

Q. 自分で警察に相談すれば、無料で特定して消してくれますか?

A. 残念ながら、ハードルは非常に高いです。 警察が動くのは、脅迫罪や明らかな偽計業務妨害罪など、事件性が極めて高いケースに限られます。個人の感想レベルや単なる名誉毀損では、民事不介入として「弁護士に相談してください」と言われるのが一般的です。

Q. 悪い口コミを書いた犯人が「元従業員」だと分かっています。この場合も開示請求が必要ですか?

A. いいえ。相手が分かっているなら特定の手続きは不要です。 直接、弁護士を通じて損害賠償請求や削除要請の通知を送ることができます。ただし、証拠(その投稿がその従業員によるものである確証)は別途必要になります。

【結び】 守るべきは「店の看板」と、そこで働く「人の心」です。

ネット上の言葉は、時に凶器となります。心ない書き込みに傷つき、眠れない夜を過ごすオーナー様も少なくありません。

法的措置という選択肢があることを知るだけでも、心の平穏を取り戻す助けになります。しかし、その決断には冷静な費用対効果の判断が欠かせません。

この記事が、あなたが正しい道を選び、再び自信を持って店舗運営に集中できるための一助となることを願っています。

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