序章:あなたの努力の証は、勝手に消されている
あなたは、ご自身のお店の「3年前の今日の検索数」を知っていますか?
おそらく、答えられる人は1割もいないでしょう。
「Googleの管理画面を見れば分かるでしょ?」
いいえ、分かりません。
実は、Googleビジネスプロフィールの管理画面で遡れるデータには「期限」があります。
一定期間を過ぎた古いデータは、Googleのサーバーから自動的に削除され、二度と見ることができなくなります。
これはMEO対策を行う上で致命的です。
なぜなら、店舗ビジネスの成長は「先月との比較」ではなく、「去年、一昨年との比較」でしか正しく評価できないからです。
データが消えるということは、あなたがこれまで積み上げてきた努力の「証拠」が消えることと同じです。
本記事では、Google任せにせず、自社でデータを保存(バックアップ)し、長期的な経営の羅針盤として活用するための「データ資産化」について解説します。
第1章:Googleの「データ保存期限」の罠
Googleビジネスプロフィールの仕様は頻繁に変わりますが、データの閲覧可能期間には限りがあります。
(※仕様変更により期間は変動しますが、2024年時点での一般的な目安です)
主要データの「寿命」を知る
- 検索数の推移など: 多くの指標は最大18ヶ月(約1年半)までしか遡れません。
- 検索語句(キーワード): 最も重要なデータですが、これはさらに短く6ヶ月程度で消えることがあります。
つまり、何もせずに放置していると、
「2年前の繁忙期、うちは一体どんなキーワードで検索されていたんだっけ?」
と思い出そうとしても、データは既に闇の中です。
「インサイト」から「パフォーマンス」への変化
以前の「インサイト」機能から、現在は「パフォーマンス」という新しい分析画面に移行しました。
この移行に伴い、過去のインサイトデータの一部が見られなくなったり、集計方法が変わったりしています。
プラットフォーム(Google)は、あくまで「場所」を借りているに過ぎません。
大家さん(Google)の都合で、いつデータが見られなくなるか分からない。
だからこそ、「自分の手元のExcel(スプレッドシート)」にデータを移しておくことが、唯一の防衛策なのです。
第2章:「自社データベース」構築の具体的手順
「データベース」と言うと難しく聞こえますが、やることは単純です。
月に1回、Googleビジネスプロフィールの数字をExcelに入力するだけです。
スプレッドシートで管理すべき「必須5項目」
あれもこれも保存する必要はありません。
経営判断に必要なのは、以下の5つの指標だけです。
【MEO管理シート 必須項目】
- 合計表示回数: どれだけ見られたか(認知)
- ルート検索数: どれだけ来店意思があったか(行動)
- 通話数: どれだけ予約電話があったか(行動)
- Webクリック数: どれだけHPへ流れたか(興味)
- (わかれば)売上高: 店舗の実際の月商(成果)
この5つを、縦軸に「年月(2023年1月、2月…)」として毎月記録していってください。
たったこれだけで、3年も経てば「宝の山」のようなデータシートが出来上がります。
月に1回、月初にやるべき「5分間のルーティン」
データのダウンロード機能(CSVエクスポート)を使うこともできますが、個人店や小規模チェーンであれば、「手入力」をおすすめします。
理由は2つあります。
- 肌感覚が身につく: 自分で数字を打ち込むことで、「あ、先月よりルート検索が落ちてるな」と体に染み込ませることができます。
- 仕様変更に強い: CSVの形式はよく変わりますが、手入力なら「必要な数字だけ」を拾えばいいので、Googleの仕様変更に振り回されません。
毎月1日か2日に、Googleビジネスプロフィールを開き、先月の数字をシートに転記する。
この「5分間の儀式」を行えるオーナーだけが、長期的な成長曲線を描くことができます。

第3章:「移動平均線」でトレンドの正体を見る
毎月のデータをグラフにすると、どうしてもギザギザになります。
「先月上がった!」「今月下がった…」と一喜一憂しがちですが、短期的な変動には「雨が多かった」「祝日が少なかった」などのノイズ(一時的な要因)が含まれています。
本当の実力(トレンド)を見るためには、「移動平均線」を使ってください。
「3ヶ月移動平均」で見ると、本当の実力が見えてくる
計算は簡単です。
「当月」+「前月」+「前々月」の3ヶ月分の数字を足して、3で割るだけです。
- 1月:100
- 2月:80(落ちた!)
- 3月:120(上がった!)
これだと乱高下に見えますが、平均をとると「100」です。
この「平均値」を毎月繋いで線にすると、ギザギザが滑らかになり、「右肩上がりなのか、右肩下がりなのか」という大きな潮流が見えてきます。
「単月では数字が落ちているように見えるが、移動平均線で見ると上昇トレンドは崩れていない」
このように判断できれば、一時的な下落に慌てて、無駄な方針転換をしてしまうミスを防げます。
第4章:過去データとの比較:YoY(昨対比)の威力
データを保存しておく最大のメリットは、この「YoY(Year Over Year:昨対比)」が見られることです。
ビジネスの成長率は「前月比」ではなく「昨対比」で測る
店舗ビジネスには季節性があります。
12月の売上が11月より高いのは当たり前です。
重要なのは、「去年の12月と比べて、今年の12月はどうだったか?」です。
- 2023年12月のルート検索数:1,000回
- 2024年12月のルート検索数:1,100回
これなら「昨対比 110%」で成長しています。
逆に、ここが100%を割っているなら、いくら先月より数字が良くても、ビジネスとしては「衰退」していることになります。
MEO対策の合格ラインは「昨対比 110%」
MEO対策を業者に依頼している場合、評価基準はここに置いてください。
市場(スマホユーザー)は微増していますが、競合も増えています。
その中で「現状維持(100%)」は、実質的な負けです。
「昨対比 110%(1.1倍)以上」をキープできているか。
データがあれば、業者に対しても「今年は105%しか伸びていませんが、何か対策を変える必要がありますか?」と、数字に基づいた鋭い指摘ができるようになります。
第5章:MEOデータと「売上」の相関分析
最後に、MEOのデータと、お店の「実際の売上(POSデータ)」を突き合わせます。
これができるのは、外部の業者ではなく、オーナーであるあなただけです。
「ルート検索数」と「来店客数」の相関を見る
Excelの機能(CORREL関数など)を使えば正確に出せますが、目視でも構いません。
「ルート検索数のグラフ」と「来店客数のグラフ」を重ねてみてください。
通常、MEOが正常に機能していれば、この2つの波形は「ほぼ同じ形」になります。
ルート検索が増えれば、客数も増える。これは健全な状態です。
相関が崩れた時に起きている「現場の異変」
怖いのは、「ルート検索は増えているのに、客数(売上)が横ばい、または下がっている」時です。
相関関係が崩れた時、現場では以下のような「異変」が起きている可能性があります。
- 現場オペレーションの崩壊: 電話に出られていない、満席で断っている(機会損失)。
- 期待値とのギャップ: マップの写真が綺麗すぎて、実際店に来た客が外観を見て帰っている。
- 臨時休業の設定漏れ: マップ上は「営業中」なのに、実際は休みだった。
データ(Web)とリアル(売上)の乖離(ギャップ)は、経営上のアラート(警報)です。
これにいち早く気づけるのも、データを蓄積し、定点観測しているからこそです。
銀行融資や事業計画の説得力が増す
余談ですが、銀行から融資を受ける際、このデータは強力な武器になります。
「なんとなく売上が上がりそうです」と言うより、
「Web上の検索需要(ルート検索数)が昨対比120%で推移しており、これと売上の相関は0.9ですので、来期の売上も20%増が見込めます」
と説明できれば、融資担当者の見る目は間違いなく変わります。

終章:データという名の「航海図」を持て
ここまで、Googleビジネスプロフィールのデータを「保存」し、「比較」することの重要性について解説してきました。
経営者には「直感(勘)」が必要です。
しかし、直感だけに頼る経営は、目隠しをして大海原を航海するようなものです。
天気が良い時は進めますが、嵐(不況や競合の出現)が来た時、自分がどこにいるのか分からなくなってしまいます。
あなたが毎月コツコツとExcelに入力するその数字は、あなたの店の「航海図」そのものです。
「去年の今頃はここを乗り越えた」
「今の嵐は一時的なものだという記録がある」
過去のデータがあれば、未来の不安を消すことができます。
Googleはプラットフォームを提供してくれますが、あなたの店の歴史(データ)を守ってはくれません。
自分の身(経営)を守れるのは、自分自身で蓄積したデータだけです。
【本記事の結論】
- Googleを信じすぎない:
データはいつか消えます。「自社データベース」を持つことだけが、唯一の防衛策です。 - 点ではなく線で見る:
毎月の増減に一喜一憂せず、「移動平均線」で長期トレンドを把握し、どっしりと構えましょう。 - 今日から始める:
3年前のデータはもう戻りませんが、3年後の自分のために、今日から記録をつけ始めましょう。
たった5分の入力作業。
それが数年後、あなたの経営判断を支える、何より頼もしいパートナーになっているはずです。