SEO/MEO対策

改善のPDCAを回す!インサイトから読み解く「ユーザーがためらった理由」

序章:「表示回数」に浮かれるな。「来店率」を見ろ

MEO対策を始めて数ヶ月。管理画面を見ると、グラフが右肩上がりになっています。
「すごい!先月より表示回数が2倍になった!」
多くのオーナー様はここで満足し、シャンパンを開けてしまいます。

しかし、翌月の売上を見て青ざめます。
「あれ? お客さんの数が全然変わっていない…」

これはMEOあるあるです。
表示回数(インプレッション)が増えるのは良いことですが、それはあくまで「看板の前を通った人の数」が増えただけです。
重要なのは、「看板を見た人が、店の中に入ってきたか(コンバージョン)」です。

穴の空いたバケツに水を注ぐな

10,000人が検索して、100人が来店する店(来店率1%)。
1,000人が検索して、100人が来店する店(来店率10%)。

ビジネスとして優秀なのは後者です。
前者の店は、9,900人の見込み客を、画面の向こう側で「やっぱりやめよう」と帰らせてしまっています。

この「ユーザーがためらった理由(離脱要因)」を突き止め、改善しない限り、いくら広告費をかけて露出を増やしても、ザルのように機会損失が続くだけです。
本記事では、Googleビジネスプロフィールのデータを「健康診断書」として活用し、お店の「体質改善(来店率アップ)」を行うためのPDCA戦略を解説します。


第1章:新・効果測定「パフォーマンス」の正しい読み方

以前は「インサイト」と呼ばれていた分析機能ですが、現在は「パフォーマンス」という名称に変わり、見られる指標もアップデートされています。
まずは、数字の定義を正しく理解しましょう。

見るべきは3つの「コンバージョン」

「ビジネス プロフィールの表示数」も大切ですが、PDCAを回すために最も重要なのは、ユーザーが興味を持った後に行う「具体的なアクション」の数です。

  1. ルートの検索数(Directions): 「ここに行きたい」という意思表示。来店直前の最強指標。
  2. 通話数(Calls): 「今空いてますか?」「予約したい」という緊急ニーズ。
  3. ウェブサイトへのクリック数(Website clicks): 「もっと詳しく知りたい」「メニューを見たい」という検討行動。

この3つの合計値を、MEOにおける「コンバージョン数(成果数)」と定義します。
毎月この数字を記録し、変動を追うことが改善のスタート地点です。

「プラットフォームとデバイス」で環境を知る

パフォーマンス画面では、ユーザーが何を使ってあなたを見つけたかが分かります。

  • Google検索(モバイル/PC): 通常の検索エンジンからの流入。
  • Googleマップ(モバイル/PC): 地図アプリからの流入。

現在はスマホ(モバイル)からの流入が8割〜9割を超えるのが一般的です。
もし「PCからの閲覧が多い」という場合は、BtoBビジネスか、オフィス街でのランチ需要が高い可能性があります。
ユーザーが「移動中にスマホで見ている」のか、「家でPCでじっくり見ている」のかを知ることで、発信すべき情報の粒度が変わってきます。


第2章:数字から読み解く「ユーザーがためらった理由」

ここからが分析の本番です。
「アクション数」が多いのに「来店」に繋がっていない場合、そこには必ず心理的なボトルネック(ためらい)が存在します。

ケースA:ルート検索が多いのに来店が少ない

「ルート検索」ボタンが100回押されたなら、理論上は100組のお客様が店に向かったはずです。
しかし、実際の来店が20組しかいない。残りの80組はどこへ消えたのか?

【考えられる「ためらい」要因】

  • 場所がわからなかった: ビルの入り口が分かりにくい、看板が出ていない。
  • 駐車場がない: マップでナビを開始したが、「駐車場なし」に気づいて途中で諦めた。
  • 外観で引いた: 店の前まで来たが、入り口が暗かったり、清潔感がなくて入るのをやめた。
  • 従業員のデータ: スタッフが出勤時に毎日ルート検索を使っている(意外と多いノイズです)。

ケースB:電話が多いのに予約が入らない

電話ボタンは押されている。しかし予約台帳は埋まらない。

【考えられる「ためらい」要因】

  • 出られていない: ランチのピーク時など、忙しくて電話を取れていない(機会損失の王様)。
  • 質問だけで終わる: 「今日空いてますか?」「個室ありますか?」→「満席です」「ないです」→ガチャン。
  • 価格の確認: 「コースいくらですか?」と聞かれ、答えたら「検討します」と切られる(高すぎると感じた)。

ケースC:Webクリックが多いのに予約がない

マップからHPには飛んでいる。でも予約フォームからの申し込みがない。

【考えられる「ためらい」要因】

  • HPがスマホ対応していない: 文字が小さくて読めない。
  • 予約方法が面倒: 電話ボタンがない、予約フォームの入力項目が多すぎる。
  • 期待外れ: マップの写真はおしゃれだったのに、HPのメニュー表が高すぎたり、魅力がなかったりした。

このように、数字の「ズレ」を見つけることで、改善すべきポイント(看板なのか、電話対応なのか、HPなのか)が浮き彫りになります。

第3章:仮説を立てる(Plan):心理的ハードルの特定

データから「どこで客が消えたか」が分かったら、次は「なぜ消えたのか」の仮説を立てます。
来店直前のユーザーが抱える不安は、大きく分けて3つしかありません。

ユーザーが抱える「3つの不安」

  1. 金銭的リスク(高くないか?):
    「時価って書いてあるけど、いくら取られるんだろう…」「ランチで2,000円は痛いな」
  2. 心理的リスク(居心地はいいか?):
    「常連ばかりでアウェーだったらどうしよう」「店員が怖かったら嫌だな」
  3. 物理的リスク(面倒じゃないか?):
    「駅から遠そう」「駐車場が満車だったら時間の無駄だな」

例えば、「電話は来るのに予約にならない(第2章のケースB)」なら、電話口で「個室はありますか?」「子供連れでもいいですか?」と聞かれて断っていないか思い出してください。
もしそうなら、「子供連れNGだと思われている(または情報がない)」ことが機会損失の原因という仮説が立ちます。

競合店のインサイトとのギャップ分析

Googleビジネスプロフィールには、競合店と自分の店を比較できるデータが表示されることがあります(または専用ツールを使用)。
「写真は競合より多いのに、表示回数が少ない」のであれば、「メイン写真(カバー写真)の魅力負け」が疑われます。
ライバル店の写真を見て、「あっちのハンバーグの方がシズル感があるな」と認めることから、改善のPlan(計画)は始まります。


第4章:改善を実行する(Do):ABテストの思考法

仮説を立てたら、次は実行です。
ただし、一気に全部変えてはいけません。何が効いたのか分からなくなるからです。
Webマーケティングの基本である「ABテスト(比較検証)」の考え方を取り入れましょう。

期間を決めて「1つだけ」変えるのが鉄則

例えば、「来店率が悪いのは、トップ画像の魅力不足ではないか?」という仮説を検証する場合。

  • A(現状): 店の外観写真
  • B(テスト): 一番人気の料理のアップ写真

この変更「だけ」を行い、他の条件(投稿頻度や広告など)は変えずに2週間様子を見ます。
これで「ルート検索数」や「反応率」が上がれば、Bの勝ち。下がればAに戻すか、別のC(内観写真)を試します。

「メニュー写真」への価格記載が決定打になるケース

「高そう」という金銭的リスクを払拭するためのテストも有効です。
メニュー写真に、あえて「画像編集で価格を大きく入れる」という施策を試してみてください。

「ディナーコース 5,000円」と明記された写真を目立つ位置に置くことで、クリック数は減るかもしれませんが(冷やかしが減るため)、電話予約の成約率が劇的に上がることがあります。
これは「予算に合う人だけが電話してくるようになった」という健全な改善です。


第5章:結果を検証する(Check/Action):季節要因の除外

施策を行ったら、翌月に必ず結果を振り返ります。
ここで注意すべきは、数字の変動が「あなたの施策のおかげ」なのか、それとも「ただの環境の変化」なのかを見極めることです。

「雨だったから下がった」のか「施策が悪かった」のか

飲食やレジャーの場合、天候や連休の影響をダイレクトに受けます。
「写真を変更したらルート検索が減った!失敗だ!」と早合点してはいけません。
よく調べたら、その期間は台風が来ていただけかもしれません。

これを防ぐために、カレンダーや天気予報と照らし合わせながらデータを読む癖をつけましょう。

前月比(MoM)ではなく前年同月比(YoY)で見る

店舗ビジネスには「繁忙期」と「閑散期」があります。
2月(閑散期)の数字を、12月(忘年会シーズン)と比較して「激減した!どうしよう!」と焦るのはナンセンスです。

比較すべきは、「去年の同じ月」です。
「去年より写真は充実しているし、口コミも増えている。なのに去年より数字が悪い」のであれば、それは市場の変化か、強力な競合の出現など、抜本的な対策が必要なサインです。

勝ちパターンをマニュアル化(標準化)する

検証の結果、「料理のアップ写真よりも、スタッフが笑っている写真の方が反応が良かった」と分かったとします。
そうしたら、それを「Action(改善・標準化)」します。

「今後は、求人サイトやSNSもすべてスタッフ推しで行こう」
「毎月の投稿には必ずスタッフの顔を入れよう」

こうして「勝ちパターン」をルール化し、積み上げていくこと。
これこそがPDCAを回す本当の目的であり、資産となります。

第6章:オフラインデータとの突き合わせ(答え合わせ)

MEOの管理画面(パフォーマンス)上の数字は、あくまで「Web上での出来事」に過ぎません。
最終的に重要なのは、それが「レジの売上(現金)」に変わったかどうかです。

Webのデータと、リアルのデータ(オフライン)を突き合わせる作業こそが、PDCAサイクルの「答え合わせ」になります。

POSレジの売上データとマップの相関関係

毎月、以下の2つのグラフを重ね合わせて見てください。

  • A:Googleマップの「ルート検索数」
  • B:POSレジの「新規客数(または売上総額)」

もし、MEO対策で「A(ルート検索)」が1.5倍になったのに、「B(来店客数)」が横ばいだったら?
それは、「店までは来ているが、入店していない(満席で断った、外観を見て帰った)」という深刻な機会損失が起きている証拠です。

逆に、AとBが綺麗に連動して伸びているなら、あなたのMEO施策は「実売に直結している」と確信できます。
この相関関係を掴むことこそが、経営の解像度を上げる鍵です。

「マップを見て来ました」を聞き出す現場オペレーション

高価なツールを使わなくても、もっと確実な計測方法があります。
それは、「お客様に聞くこと」です。

会計時や注文時に、スタッフが「今日は何を見て当店を知りましたか?」と一言聞く。
これを徹底し、「Googleマップ」「インスタ」「通りがかり」と正の字でカウントするだけで、数百万のツールよりも正確なデータが手に入ります。

現場のスタッフを巻き込み、「Web集客」を自分ごと化させるためにも、このアナログな手法は極めて有効です。

MEO専用のクーポンコード発行で効果測定

もう一つのテクニックは、Googleビジネスプロフィールの「投稿」機能を使い、測定用のクーポンを出すことです。

【投稿例】
「Googleマップを見た方限定!
注文時にこの画面提示で『ドリンク1杯無料』」

この画面を見せてくれたお客様の数を数えれば、Googleマップ経由の来店数が物理的に証明されます。
「本当にマップから来てるの?」と疑心暗鬼になっているオーナー様は、ぜひ一度試してみてください。


終章:MEOは「科学」である

ここまで、Googleビジネスプロフィールのインサイト分析と、PDCAの回し方について解説してきました。

多くの人が、集客を「運」や「センス」だと思っています。
「たまたまテレビに出たから」「流行りのタピオカだから」
確かにそういうブームも存在しますが、それは長続きしません。

MEO対策の本質は、「科学(サイエンス)」です。

  1. データを見て、ユーザーの「ためらい」を発見する。
  2. 仮説を立て、写真や文章を少し変えてみる。
  3. 結果を検証し、良かったものを残す。

この地味な実験の繰り返しだけが、あなたの店を「選ばれる店」へと進化させます。

【今日からのアクション】

まずは、Googleビジネスプロフィールの管理画面を開き、「パフォーマンス」のタブをクリックしてください。
そこに表示されている数字は、ただの統計データではありません。
あなたのお店に興味を持ち、迷い、そして決断した(あるいは去っていった)「一人ひとりのお客様の物語」です。

数字の声に耳を傾けてください。
そこには必ず、明日の売上を上げるためのヒントが隠されています。

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