序章:「1店舗1サイト」で作ってはいけない
多店舗展開をしているオーナー様や、複数の事業(例:整体院とジム)を運営している方から、最も多く寄せられる相談があります。
「新しい店舗を出すのですが、ホームページも新しく作った方がいいですか?」
直感的には、店舗ごとに独自のドメイン(URL)を取得し、個別のサイトを作った方が、「専門性が高まる」ように感じるかもしれません。
しかし、MEO(およびSEO)の観点から言うと、安易なサイトの分割(マルチドメイン化)は、自社の戦力を分散させる「悪手」になることがほとんどです。
「親亀コケたら皆コケる」ではなく「親亀強けりゃ皆強い」
前回の記事で「ドメインパワー」の重要性を解説しました。
Webサイトの評価とは、RPGのレベル上げのようなものです。
- 1つのサイトにまとめる場合: 全店舗の活動経験値が「1人のキャラクター」に集まるため、レベルが上がりやすく、結果として全店舗が「レベル99のサイト」の恩恵を受けられます。
- 店舗ごとにサイトを作る場合: 経験値が分散し、「レベル10のキャラクター」が10人いる状態になります。これでは、競合の「レベル50のサイト」には勝てません。
MEO対策において、ウェブサイトは「母艦」です。
本記事では、複数店舗・複数事業を展開する際の「最強の母艦作り」と、Googleマップとの正しい紐付け方について解説します。
第1章:Googleが推奨する「GBP×Webサイト」の紐付け原則
サイト構成を決める前に、まずはGoogleビジネスプロフィール(GBP)の「ウェブサイト」の項目に、どのURLを登録すべきかという「大原則」を確認しましょう。
基本ルール:1 GBP = 1 Unique URL
Googleマップのアルゴリズムは、「検索された場所(エリア)」と「リンク先ページの内容(地域性)」の一致度を極めて重視しています。
もしあなたが全国に10店舗を展開しているとして、全てのGBPのリンク先を「本社のトップページ(https://example.com/)」に設定していたらどうなるでしょうか?
「大阪 居酒屋」で検索したユーザーが、あなたの大阪店のマップをクリックし、ウェブサイトに飛んだら「東京本社の社長挨拶」が出てくる…。
これはユーザー体験として最悪であり、Googleからの評価も上がりません。
GBPのウェブサイト欄には、トップページではなく、必ず「その店舗専用の個別ページ(LP)」のURLを設定してください。
「NAP+W」の一致が信頼性の根幹
MEOでは「NAP(Name, Address, Phone)」の一致が重要と言われますが、ここにWebサイト(Website)を加えた「NAP+W」の一致が必須です。
Googleのクローラーは、GBPに登録された情報と、リンク先のWebページに書かれた情報を照らし合わせています。
- GBPの情報: 〇〇店、大阪府大阪市…、06-xxxx-xxxx
- リンク先Webの情報: 〇〇店、大阪府大阪市…、06-xxxx-xxxx
この情報の整合性が取れて初めて、Googleは「このWebページは、このマップ情報の正規の裏付けである」と認識します。
だからこそ、店舗ごとに固有の情報が書かれたページが必要なのです。
第2章:パターンA:【推奨】サブディレクトリ型(1ドメイン集中)
では、その「店舗ごとのページ」をどのようなURL構造で作るべきか。
MEO対策として、最も推奨されるのが「サブディレクトリ型」です。
構造とメリット
既存のメインサイト(ドメイン)の下層に、ディレクトリ(フォルダ)を切って店舗ページを作る方法です。
【URL例】
https://example.com/shop/shinjuku/ (新宿店)
https://example.com/shop/osaka/ (大阪店)
| 項目 | サブディレクトリ型の特徴 |
|---|---|
| ドメインパワー | 最強(集中) 全店舗へのアクセスや被リンクが、全て本体ドメイン(example.com)の評価として蓄積される。 |
| 管理コスト | 低い 1つのWordPressやCMSで全店舗を一元管理できる。 |
| MEO効果 | 高い 新店舗を出した瞬間から、本体サイトの強いドメインパワーを借りて上位表示を狙える。 |
成功事例:チェーン店が強い理由
ホットペッパービューティーや食べログ、あるいは大手チェーン店(マクドナルドやスターバックス)がMEOで強い理由はここにあります。
彼らは決して「新宿店.com」のようなドメインを取りません。
すべて巨大な本体ドメインの下に店舗ページをぶら下げています。
中小企業であっても、3店舗〜10店舗と拡大していくなら、この「1つの強いドメインに全店舗を集結させる」戦略をとることで、地域のライバル店(単独ドメイン)に対して、ドメインパワーの暴力的な差を見せつけることが可能になります。
運用の注意点:テンプレート化の弊害
唯一のデメリットは、ページ構成が金太郎飴(コピペ)になりやすいことです。
前回の記事「エリアLPの作り方」でも触れましたが、サブディレクトリで運用する場合、ヘッダーやフッターが共通になる分、**メインコンテンツエリア(本文)**でしっかりと店舗ごとの独自色(店長コメント、独自メニュー、地域情報)を出さないと、Googleから「重複コンテンツ」と見なされるリスクがあります。
システムで効率化しつつ、中身(コンテンツ)は泥臭く店舗ごとに書き分ける。
これがサブディレクトリ運用の勝利の方程式です。

第3章:パターンB:マルチドメイン型(ブランド別)
基本は「1ドメイン集中(サブディレクトリ)」が最強ですが、例外的にドメインを分けた方が良いケースも存在します。
それは、展開する事業の「属性(ターゲット・業態)」が完全に異なる場合です。
いつ選ぶべきか?:「混ぜるな危険」の判断基準
例えば、あなたが以下の2つの店舗を経営しているとします。
- A店: 客単価3万円の高級フレンチレストラン
- B店: 客単価2,000円の大衆焼き鳥居酒屋
これを1つのドメイン(example.com)にまとめてしまうとどうなるでしょうか。
サイト全体の「専門性」や「ブランドイメージ」がちぐはぐになり、Googleが「このサイトは何のサイトなのか(高級店なのか格安店なのか)」を判断しづらくなります。
また、ユーザーにとっても、高級フレンチを予約しようとしてサイトを開いたら、サイドメニューに「焼き鳥」が出てくるのはノイズでしかありません。
- 業種が全く違う(例:整体院 と 英会話教室)
- 価格帯や客層が真逆(例:高級サロン と 1,000円カット)
- エリアが離れすぎている(例:北海道のペンション と 沖縄のダイビングショップ)※SEOキーワードが競合しないため分けても良い
MEO上の注意点:サイテーションの分散リスク
ドメインを分ける(french-a.com / yakitori-b.com)場合、それぞれのサイトを一から育てる必要があります。
当然、ドメインパワーは「0」からのスタートです。
MEO対策としては、それぞれのサイトで「会社概要」や「運営元」の情報を明確にし、「別々のブランドだが、運営母体は信頼できる同じ企業である」という信号(構造化データなど)を送る工夫が必要です。
第4章:サブドメイン型はMEOでは「茨の道」
最も推奨しない、中途半端な構成が「サブドメイン型」です。
【URL例】
shinjuku.example.com
osaka.example.com
なぜGoogleマップ対策において不利なのか
Googleの検索アルゴリズムにおいて、サブドメインは「本体ドメインとは別のサイト(親戚のような関係)」として扱われる傾向があります。
つまり、サブディレクトリ(/shinjuku/)なら100%受け継がれるドメインパワーが、サブドメイン(shinjuku.)だと、その恩恵が目減りしてしまうのです。
それなのに、管理画面は別々になり、SSL証明書も個別に必要になるなど、管理コストだけは一丁前にかかります。
無料HP作成サービスの落とし穴
Wix、Jimdo、Ameba Owndなどの無料プランや、一部の予約システム付属のHP機能を使うと、強制的にサブドメイン(例:myshop.wixsite.com)になります。
これは、「Wixという巨大なビルの、一室を借りているテナント」のような状態です。
MEOにおいて、独自ドメイン(自社ビル)を持つ競合と戦う時、この「借り物のアドレス」は信頼性の面で不利に働くことがあります。
「とりあえず無料で作る」のは構いませんが、本気で集客するなら、早めに独自ドメインを取得し、サブディレクトリ運用へ切り替えることを強くお勧めします。
第5章:複数サイト運用時の「クロスドメイン」計測と管理
最後に、やむを得ず複数ドメインを運用する場合や、予約システム(外部ドメイン)へ遷移する場合のテクニカルな設定についてです。
GA4でのクロスドメイン設定
ユーザーが以下の動きをした場合、通常の設定では「別のユーザー」としてカウントされてしまいます。
- 店舗サイト(
shop-a.com)を見る - 予約ボタンを押して予約システム(
reserve-system.com)へ飛ぶ
これでは、「MEOから来た人が予約したのか」が追跡できません。
Googleアナリティクス4(GA4)の管理画面で「クロスドメイン設定」を行い、これら2つのドメインを「一連の動き」として計測できるように紐付けてください。
「重複コンテンツ」判定を避けるためのcanonical設定
複数サイトを持っていると、どうしても「会社概要」や「コンセプト」の文章が被ってしまいます。
これを放置すると、Googleから「コピペサイト」と判定され、ペナルティ(順位下落)を受ける可能性があります。
これを防ぐために、優先度の低い方のページ(コピー側)のHTMLヘッダーに、以下のタグを記述します。
「このページはコピーです。評価すべき正規のページはこちらです」とGoogleに宣言することで、ペナルティを回避しつつ、正しい評価をメインサイトに集めることができます。

終章:「木を見て森も見る」サイト戦略
ここまで、複数ドメイン・複数サイト運用におけるMEO戦略について解説してきました。
最後に、本記事の要点を整理します。
あなたがこれから新店舗を出す際、あるいはサイトのリニューアルをする際は、以下のチェックリストを判断基準にしてください。
【MEOサイト構成の最終結論】
- 原則:
「サブディレクトリ(example.com/shop/)」で一本化する。
これがドメインパワーを最大化し、全店舗を勝たせる唯一の近道。 - 例外:
業態・ターゲット・価格帯が完全に異なる場合のみ「別ドメイン」を検討する。 - 禁止:
安易な「サブドメイン」や、中身のない「ペライチ量産」は避ける。
管理コストが増えるだけで、Googleからの評価は分散する。 - 必須:
GBPのリンク先はトップページではなく、必ず「その店舗の専用ページ」に紐付ける。
MEO対策というと、どうしても「キーワード設定」や「口コミ」といった目に見える部分(木)にばかり目が行きがちです。
しかし、Googleマップの順位を裏で支えているのは、Webサイト全体の構造設計(森)です。
「とりあえず店舗ごとにサイトを作ってしまった」
「無料ブログと公式サイトがごちゃ混ぜになっている」
もし現状がそうであっても、焦る必要はありません。
次のリニューアルのタイミングで統合計画を立て、少しずつ「強い母艦」へと集約していけば良いのです。
正しいサイト構成は、あなたのビジネスをデジタル上で何倍にも強く見せてくれます。
まずは、ご自身のサイト構成がGoogleにとって「分かりやすい地図」になっているか、見直すことから始めてみてください。